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論文)CONSTANSの転写を活性化するbHLH型転写因子

2012-03-27 19:27:33 | 読んだ論文備忘録

FLOWERING BHLH transcriptional activators control expression of the photoperiodic flowering regulator CONSTANS in Arabidopsis
Ito et al.  PNAS (2012) 109:3582-3587.
doi:10.1073/pnas.1118876109

シロイヌナズナにおいて、概日時計によるCONSTANSCO )遺伝子の転写制御とCOタンパク質の光依存翻訳後制御は、光周性花成において最も重要な日長計測機構となっている。CO 遺伝子の転写は様々な因子によって制御されているが、直接CO 遺伝子のプロモーター領域に結合することが示されている転写因子はCYCLING DOF FACTOR(CDF)のみであり、しかもCDFはCO の転写抑制因子として機能している。米国 ワシントン大学今泉らは、CO 遺伝子のプロモーター領域を用いて酵母one-hybrid 法により概日時計による制御を受ける転写因子ライブラリーのスクリーニングを行ない、bHLH 型転写因子ファミリーに属するAt1g35460を見出した。シロイヌナズナゲノムには、この遺伝子のコードするbHLH転写因子と相同性が高いタンパク質をコードする遺伝子がもう1つ(At4g09180)があり、それぞれをFLOWERING BHLH 1FBH1 )、FBH2 と命名した。酵母one-hybrid 法によりFBH2もFBH1と同様にCO プロモーター領域に結合することが確認された。FBH1とFBH2はCO プロモーター領域のE-box エレメントに結合することがわかった。FBH1 もしくはFBH235S プロモーターで過剰発現させた形質転換体は、CO 過剰発現個体と類似して日長に関係なく花成が早まり、CO 発現量も増加していた。CO の発現を制御している遺伝子の発現量は過剰発現個体と野生型で違いは見られないことから、FBH1FBH2 の過剰発現はCO 転写産物量を直接に特異的に増加させていると考えられる。FBH 過剰発現個体での花成制御遺伝子の発現量を見たところ、FLOWERING LOCUS TFT )の転写産物量は日長に関係なく増加しており、FLOWERING LOCUS CFLC )の転写産物量は僅かに減少、SUPPRESSOR OF OVEREXPRESSION OF CONSTANSSOC )転写産物量は変化が見られなかった。ft 変異体でFBH1 を過剰発現させた系統は、ft 変異体と同じく花成遅延が起こることから、FBH1 過剰発現個体の早期花成の表現型はCO 発現量の上昇によるFT 転写産物量の増加により引き起こされていると考えられる。野生型植物においてCO は維管束組織において発現しているが、FBH1 過剰発現個体においてもCO 発現部位に変化は見られず、発現量のみが増加していた。よって、FBH1、FBH2の活性は維管束組織に限定されていることが示唆される。野生型植物でのFBH1 の主な発現部位もCO と同様に維管束組織であった。クロマチン免疫沈降アッセイにより、CO の発現量が長日条件で底値となるツァイトゲーバー時刻4(ZT4)とCO の発現量が最大となるZT13におけるFBH1タンパク質のCO プロモーターへの結合を見たところ、FBH1タンパク質はZT13にCO プロモーターのE-box を含んだ領域に多く結合することが確認され、FBH1は生体内おいてCO クロマチンに結合してCO の転写を制御していることが示唆される。FBH1タンパク質は日長条件に関係なく一日を通して常に同じ量が蓄積いていることから、FBH1がCO の発現を誘導するためには何らかの翻訳後修飾か未知のタンパク質が必要であると思われる。FBH1 の人工マイクロRNA導入とFBH2 のT-DNA挿入で構成されたamiRFBH1 fbh2 系統は、COFT の発現に野生型との違いが見られず、他に機能重複するタンパク質が存在することが示唆された。FBH1FBH2 と同じクレイドに属するbHLHは、両者に加えて4つあり、そのうち3つについてクローニングができたので過剰発現個体を作成して花成を見たところ、At1g51140(FBH3 )とAt2g42280(FBH4 )の過剰発現個体は花成が早くなり、CO の発現量も増加していた。また、FBH3、FBH4ともにCO プロモーター領域にE-box を介して結合することが確認された。4つのFBH 遺伝子は日長条件に関係なく一日を通して発現しており、FBH4 (おそらくFBH1 も)の転写産物量は概日周期の変動パターンを示した。FBH3 は維管束組織において発現しており、FBH4 は維管束組織に加えて気孔においても発現が見られた。したがって、FBH3、FBH4もFBH1、FBH2と同様にCO の転写制御に関与していると考えられる。4つのFBH 遺伝子を発現抑制したamiRFBH1 fbh2 fbh3 amiRFBH4 系統では暗期のCO 発現量が野生型よりも50 %以上低下しており、これらのFBHタンパク質は暗期の始まりでのCO 発現の主要な活性化因子であると考えられる。CO /FT による花成制御機構は多くの植物において保存されていることから、ポプラ(長日の樹木)とイネ(短日植物)のFBH ホモログをシロイヌナズナにおいて過剰発現させたところ、日長条件に関係なくCO の発現量が増加した。そしてポプラFBH ホモログ(PtFBH1 )を過剰発現させた個体は長日・短日条件で花成が早まり、イネFBH ホモログ(OsFBH1 )を過剰発現さえ他個体は長日条件での花成が早くなった。よって、両植物のFBHともシロイヌナズナFBHと同じ機能を有していると考えられる。以上の結果から、FBHは光周性花成においてCO の転写を正に制御する因子であり、この機構は多くの植物種において保存されていると考えられる。

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