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論文)トライコーム分枝を制御するC2H2型転写因子

2012-03-24 17:28:58 | 読んだ論文備忘録

GLABROUS INFLORESCENCE STEMS (GIS) is Required for Trichome Branching Through Gibberellic Acid Signaling in Arabidopsis
An et al.  Plant Cell Physiol (2012) 53:457-469.
doi:10.1093/pcp/pcr192

トライコームは表皮の始原細胞が4回の核内倍加を経てDNA量が32Cとなり、2つ以上の分枝を形成する。これまでの遺伝学的な研究からトライコーム形成に関与する遺伝子座が複数見出されており、それらは核内倍加と分枝の両方に関与するものと分枝のみに関与するものに分けられる。また、トライコームの形成・分枝にジベレリン(GA)シグナルが関与していることが知られている。中国 浙江大学Gan らは、C2H2型転写因子をコードするGLABROUS INFLORESCENCE STEMSGIS )のトライコーム形成制御に関して解析を行なった。野生型シロイヌナズナでは、主茎や側枝のトライコームは分枝が1つもしくは2つであり、ロゼット葉では多くのトライコームが三枝となる。一方、gis 変異体では茎や側枝のトライコームの多くが三枝となり、ロゼット葉では五枝のトライコームも観察された。GIS と相同性の高いGIS2 の変異体gis2 ではトライコームの分枝パターンに変化は見られなかった。ロゼット葉の向軸側、背軸側のトライコームの分枝数を調査したところ、gis 変異体は野生型よりも分枝数が増加しており、GIS はトライコームの分枝形成を抑制する因子として機能していると考えられる。GIS35S プロモーターで過剰発現させた系統は、茎、ロゼット葉共にトライコームの分枝数が減少していた。野生型植物をGA処理すると茎やロゼット葉でトライコームの分枝数の増加が観察されるが、gis 変異体をGA処理してもトライコームの分枝に変化は見られなかった。GA生合成阻害剤であるパクロブトラゾール(PAC)処理をするとトライコームの分枝が減少し、gis 変異体は野生型よりもPAC感受性が高く、低濃度のPAC処理によって分枝数減少を引き起こした。よって、GIS はGAシグナルによるトライコームの分枝形成を制御していると考えられる。ジベレリンシグナル伝達に対して抑制的に作用するSPINDLYSPY )の機能喪失変異体は、葉のトライコームは四枝や五枝のものが増加し、トライコームのDNA量も増加する。gis spy 二重変異体のロゼット葉のトライコームは四枝、五枝のもがgis 変異体よりも多く、spy 変異体と同等であった。よって、GIS はロゼット葉のトライコーム分枝の制御においてSPY の上流で機能していることが示唆される。花序茎では、spy 変異体のトライコームは一枝のもが多く、分枝は野生型よりも減少するが、gis spy 二重変異体の花序茎のトライコームの多くは三枝であり、gis 変異体の表現型と類似していた。よって、花序でのトライコーム分枝形成においてGISSPY の下流で機能していると考えられる。gis 変異体でのSPY の発現を見たところ、ロゼット葉では発現量が減少しており、花序茎では発現量に変化が見られなかった。gis 変異体花序のトライコームは野生型よりも分枝数が多くなるが、トライコームの核のDNA含量は野生型と比べて大きな違いは見られなかった。よって、GIS はトライコーム細胞の核内倍加には関与しておらず、核内倍加とは関係なく分枝増加を引き起こしていると考えられる。核内倍加とは独立した経路でトライコーム分枝を制御する因子をコードするSTICHELSTI )の機能喪失変異体sti は無分枝のトライコームを形成するが、sti 変異体ではGIS の発現量が大きく減少していた。GIS を過剰発現させた個体でのSTI の発現量に変化は見られず、gis sti 二重変異体のトライコームの形状はgis 変異体と類似していた。よって、GISSTI の下流において機能していると考えられる。GIS の発現はGA処理によって誘導されるが、STI もGA処理によって発現誘導されることから、GISSTI の下流においてGAシグナルを介してトライコームの分枝を制御していると考えられる。以上の結果から、GIS は核内倍加と独立してトライコーム分枝を制御しているSTI の下流においてジベレリンシグナルを介してトライコームの分枝を負に制御しており、トライコーム形成をする器官に応じてGAシグナルの負の制御因子であるSPY の上流もしくは下流において機能していると考えられる。

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