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植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)光シグナルによるデンプン合成関連遺伝子の発現制御

2024-08-04 12:22:51 | 読んだ論文備忘録

Modulation of starch synthesis in Arabidopsis via phytochrome B‐mediated light signal transduction
Shi et al.  J. Integr. Plant Biol. (2024) 66:973–985.

doi:10.1111/jipb.13630

葉緑体は貯蔵炭水化物として一過的にデンプン(transient starch)を蓄積する。葉緑体でのデンプン合成は、内因性の代謝シグナルと外因性の環境シグナルの両方によって制御されている。中国 山東農業大学のLiらは、光シグナルがシロイヌナズナの葉のデンプン合成に与える影響を調査した。シロイヌナズナに、赤色(R)光の比率が遠赤色(FR)光よりも高い高R:FR光もしくは模擬日陰条件としてR光の比率が低い低R:FR光を1週間照射したところ、デンプン蓄積量は、高R:FR光条件下で徐々に増加し、低R:FR光照射では有意に減少していった。高R:FR光によってデンプン合成関連遺伝子の発現が上昇したが、低R:FR光処理では低下した。葉のデンプン合成における光受容体フィトクロムB(phyB)の役割について、phyB-9 変異体とphyB-GFP35Sp::phyB-GFP)過剰発現系統を用いて調査したところ、高R:FR光条件下では、phyB-9 変異体のデンプン含量が野生型植物と比較して30%減少し、phyB-GFP 系統では16%増加した。長期間の低R:FR光処理後、phyB-9 変異体ではデンプン含量が29%減少したが、phyB-GFP 系統では14%増加した。さらに、低R:FR光条件下での野生型植物、phyB-9 変異体、phyB-GFP 系統のデンプン含量は、高R:FR光条件下と比較して、約22%-25%有意に減少した。したがって、phyBは光シグナルの変化に応答してデンプン合成を促進していると考えられる。デンプン合成関連遺伝子の発現を見ると、顆粒結合型デンプン合成酵素(GBSS)と可溶性デンプン合成酵素のSS4 は、phyB-9 変異体ではほとんど完全に阻害され、SS3 の発現は約50%減少した。さらに、短期間の低R:FR光処理後、野生型植物ではデンプン合成関連遺伝子の発現が有意に低下したが、phyB-9 変異体での低下はわずかであった。これらの結果から、phyBは、光シグナルの変化に応答してデンプン合成関連遺伝子の発現を高め、デンプン合成を促進していることが示唆される。次に、光シグナル伝達においてphyBの下流に位置するbZIP型転写因子ELONGATED HYPOCOTYL5(HY5)の役割について調査した。高R:FR光条件下において、hy5-215 変異体のデンプン含量は野生型植物と比較して20%減少していたが、HY5-GFP 過剰発現系統は10%増加していた。低R:FR光処理後の野生型植物、hy5-215 変異体、HY5-GFP 系統のデンプン含量は、高R:FR光下で生育させた植物と比較して、それぞれ15%、24%、11%減少していた。これらの結果から、HY5はデンプン合成を促進し、模擬日陰処理によるデンプン蓄積に対する悪影響を打ち消す役割を果たしていることが示唆される。HY5はターゲット遺伝子プロモーター領域のG-box(CACGTG)に結合して転写を制御することが知られており、hy5-215 変異体のGBSSSS3SS4 転写産物量は野生型植物よりも低くなっていた。解析の結果、HY5はGBSSSS3SS4 のプロモーター領域G-boxに直接結合して発現を活性化することが確認された。光シグナルを負に制御するbHLH型転写因子PHYTOCHROME INTERACTING. FACTOR(PIF)のデンプン合成における役割を解析したところ、pif 変異体では葉のデンプン含量が増加し、PIF 過剰発現系統では減少しており、PIF3、PIF4、PIF5はGBSSSS3SS4 のプロモーター領域のG-boxに結合して発現を阻害し、デンプン合成を負に制御していることが判った。HY5とPIFによる葉のデンプン合成の拮抗的制御を解析するため、高R:FR光または低R:FR光条件下で生育させた野生型植物、hy5-215 変異体、pif3 変異体、pif3 hy5 二重変異体の葉のデンプン含量を測定した。その結果、高R:FR光下では、pif3 hy5 二重変異体のデンプン含量はhy5-215 変異体よりも高く、pif3 変異体よりも低く、野生型植物と同等であること、模擬日陰処理後のhy5 変異体、pif3 hy5 二重変異体のデンプン含量は、未処理のものに比べてそれぞれ26.8%および25.7%減少しており、pif3 変異体で観察された15%の減少よりも顕著であることが判った。模擬日陰処理によって葉のPIF3、PIF4、PIF5タンパク質量は増加し、HY5タンパク質量は減少した。ChIP-qPCR解析から、PIF3のSS3SS4 遺伝子プロモーター領域への結合は低R:FR光条件下で増加すること、HY5の結合は高R:FR光条件下で増加して低R:FR光条件下で減少することが確認された。これらの結果から、HY5とPIFは環境下の光に応答してデンプン合成を協調的に制御していることが示唆される。phyBとPIFの遺伝的相互作用を変異体を用いて解析したところ、高R:FR光条件下でのphyB-9 変異体のデンプン含量の減少は、pifqpif1 pif3 pif4 pif5)変異の導入により部分的に回復すること、phyB pifq 多重変異体は、phyB-9 変異体と比較して、模擬日陰に対する抵抗性が増加していることが判った。このことは、日陰条件下で、pifq 変異がphyB-9 変異体のデンプン含量減少表現型を補ったことを示唆している。phyB pifq 変異体でのGBSSSS3SS4 発現量は、phyB-9 変異体よりも高くなっていた。ベンサミアナタバコを用いた共発現解析から、PIF3とPIF5はGBSSSS3SS4 のプロモーター活性を低下させ、phyBはPIFの活性抑制効果を部分的に減少させることが判った。これらの結果から、phyBはPIFタンパク質を部分的に分解することによってデンプン合成遺伝子の発現を促進し、シロイヌナズナのデンプン合成を促進することが示唆される。pifq 変異体の葉はデンプン蓄積量が増加するが、デンプン合成関連遺伝子の変異を導入することでデンプン含量は減少した。したがって、PIFはデンプン合成の制御においてGBSSSS3SS4 の上流で機能しており、これらの遺伝子の転写の増加がpifq 変異体におけるデンプン蓄積の増加に寄与していると考えられる。以上の結果から、光シグナルはシロイヌナズナの葉におけるデンプン合成の制御に重要な役割を果たしており、この過程はphyB、HY5、PIFが重要な調節因子として作用していることが明らかとなった。phyBとHY5はデンプン合成を促進し、PIFそれを抑制しており、HY5とPIFによる拮抗的な制御は、光シグナルの動的な変化に応答してデンプン合成を微調整していると考えられる。

 

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