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論文)DELLAタンパク質による種子サイズの制御

2023-09-15 11:28:40 | 読んだ論文備忘録

DELLA proteins positively regulate seed size in Arabidopsis
Gomez et al.  Development (2023) 150:dev201853.

doi:10.1242/dev.201853

種子の大きさは、母体由来組織と接合体組織からのシグナルによって種皮、胚乳、胚の成長を制御することで調節されている。スペイン バレンシア・ポリテクニク大学(UPV)植物分子細胞生物学研究所(IBMCP)Gomezらは、以前の研究において、シロイヌナズナのDELLAタンパク質の機能獲得変異体の種子に形態変化が見られることを発見し、今回その機構について解析を行なった。シロイヌナズナDELLA 遺伝子の機能獲得変異体(rgaΔ17rgl1Δ17rgl2Δ17gai-1)と機能喪失変異体( rga24rgl1-1rgl2-1gaiT6)の乾燥種子の大きさを比較したところ、機能獲得変異体の種子は野生型植物種子より大きく、特に、gai-1 種子では、野生型と比較して大きさが25%、重量が42%増加していた。一方、機能喪失変異体では、rga24 変異体を除いて種子の大きさが有意に減少した。gai-1 変異体とgaiT6 変異体では、種子の長さと幅の比が野生型種子と同等であり、DELLA活性は種子サイズの増減に関与しているが、種子の形状には影響していない。ジベレリン(GA)受容体の変異体についても調査したところ、胚珠での発現が確認されているGID1aGID1b の機能喪失変異体の種子は野生型種子よりも大きかった。また、GA生合成阻害剤パクロブトラゾール(PBZ)処理をして、GA量を低下させDELLAタンパク質の蓄積を促進させることでも、gai-1 変異体と同じように、種子が大きくなった。これらの結果から、シロイヌナズナのDELLA活性と種子の大きさの間には正の相関があると考えられる。gai-1 変異体、gaiT6 変異体と野生型植物の交配試験から、種子の大きさに対するDELLAタンパク質の効果は、花粉の遺伝子型に関係なく、gai-1 変異体、gaiT6 変異体が母親である場合にのみ観察された。このことから、DELLAタンパク質は、種子の母体由来組織(珠皮、種皮)の成長を制御することによって種子の大きさを制御していることが示唆される。そこで、DELLAタンパク質活性が珠皮の初期発達、胚珠や種子の大きさに影響するのかを調査した。その結果、胚珠の大きさは、野生型植物よりもgai-1 変異体やPBZ処理した植物で有意に大きく、gaiT6 変異体で小さくなっており、胚珠の大きさと種子の大きさは一致していることが判った。珠皮の細胞層や種皮の細胞数を比較すると、gaiT6 変異体は細胞数が減少しており、gai-1 変異体やPBZ処理植物では増加していた。よって、DELLA活性は珠皮の細胞分裂を促進して種子の大きさに影響をおよぼしていると考えられる。そこで、胚珠や種子の発達過程でのB-typeサイクリンの発現を調査したところ、gai-1 変異体の長角果ではCYCB1;1CYCB1;2CYCB1;4 の発現量が野生型植物よりも高く、蛍光標識したCYCB1;2 は発達中の胚珠で発現が高いことが判った。母親由来組織の細胞分裂制御には、様々な転写因子や植物ホルモンが関与している。過去の解析において、胚珠の成長を制御しているAP2型転写因子遺伝子AINTEGUMENTAANT)はGAIのターゲットとなっており、ANT プロモーター領域にはGAI結合部位と推測される配列があることが報告されている。また、ANT 過剰発現系統の胚珠や種子は、gai-1 変異体と類似した表現型を示す。薬剤誘導コンストラクトを用いた解析から、GAIがANT の発現を増加させることが確認された。さらに、gai-1 変異体の発達中の胚珠の合点、珠皮、珠柄ではANT 発現量が野生型植物よりも高くなっていた。これらの結果から、DELLA活性は、ANT の発現を活性化することによって珠皮細胞の増殖を促進して胚珠のサイズを増加させることで種子を大きくさせていると考えられる。DELLAタンパク質を穀物の種子サイズを改良するバイオテクノロジーのツールとして利用可能であるかを見るために、gai-1 変異体の胚発生過程、種子の構造や代謝産物(脂肪酸、糖、遊離アミノ酸)組成を調査したが、野生型植物と同等であった。したがって、DELLA活性を調節しても、種子の大きさに影響するだけで、発生、形態、代謝は変化しないことが示唆される。以上の結果から、DELLAタンパク質は、(未知の転写因子を介して)ANT の発現を活性化して珠皮の細胞分裂を促進し、種子の大きさを制御していると考えられる。ANTはGAI 遺伝子のプロモーター領域に結合して発現を促進することが報告されているので、ANTGAI は正のフィードバック機構でお互いの発現を調節しあっているものと思われる。

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