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論文)フック形成を制御するE3ユビキチンリガーゼ

2024-07-27 08:54:33 | 読んだ論文備忘録

WAV E3 ubiquitin ligases mediate degradation of IAA32/34 in the TMK1-mediated auxin signaling pathway during apical hook development
Wang et al.  PNAS (2024) 121:e2314353121

doi:10.1073/pnas.2314353121

シロイヌナズナCK-induced root waving 1ckrw1)/wavy growth 3wav3)変異体は、傾斜寒天培地上で育成した芽生えの根が短い間隔で波打つ。CKRW1/WAV3(At5g49665)はE3ユビキチンリガーゼをコードしており、シロイヌナズナゲノムには3つのホモログ遺伝子WAV3 HOMOLOG 1WAVH1、At2g22680)、WAVH2(At5g65683)、EMBRYO SAC DEVELOPMENT ARREST 40EDA40、At4g37890)が存在する。中国 蘭州大学Wuらは、WAV ファミリー遺伝子の遺伝的相互作用を確認するために、それぞれの単独変異体から多重変異体を作出して表現型を観察した。その結果、根の表現型はwav3-2 wavh1-1 wavh2-1 三重変異体(以下、wav 三重変異体と呼ぶ)で最も強くなり、3つの単独変異体では非常に弱いことが判った。また、暗黒下で育成した二重変異体および三重変異体の芽生えは、明らかなフックの欠損が見られ、三重変異体の表現型が最も顕著であった。wav 三重変異体でCKRW1/WAV3 を恒常的に発現させることで三重変異体の表現型が弱まったが、E3ユビキチンリガーゼ活性が失われたアミノ酸置換型CKRW1/WAV3(CKRW1/WAV3C125S)を発現させた場合には表現型の変化は見られなかった。したがって、CKRW1/WAV3のE3ユビキチンリガーゼ活性は、根と茎頂フックの発達に関与していることが示唆される。CKRW1/WAV3が標的としているタンパク質を探索するために酵母two-hybridアッセイを行なったところ、Aux/IAA転写リプレッサーのIAA32とIAA34が見出された。IAA32/34は、ドメインII(DII)を欠いた非正規型Aux/IAAで、最近、茎頂フック形成の制御に関与していることが報告されている。IAA32/34は、WAVH1/2とも相互作用をしたが、TIR1やAFB2といった正規のオーキシンシグナル伝達経路のE3ユビキチンリガーゼとは相互作用をしなかった。芽生えを翻訳阻害剤シクロヘキシミドで処理すると、野生型植物ではIAA32/34タンパク質量が徐々に減少していったが、wav 三重変異体では有意な変化は見られなかった。また、野生型植物を26Sプロテアソーム阻害剤MG132で処理すると、IAA32/34タンパク質量の減少が抑制された。これらの結果から、WAV E3ユビキチンリガーゼは、IAA32/34と相互作用をし、ユビキチン化/分解の標的としていると考えられる。各WAVタンパク質は類似した組織局在を示し、長日条件下では根、葉原基、子葉、胚軸に局在していた。黄化芽生えでは、子葉、胚軸上部、茎頂フックの凹凸面側に均等に局在し、フックでは形成期(24 h)から維持期(24~48 h)に局在量が多くなった。フックが展開すると、CKRW1/WAV3とWAVH1は減少していったが、WAVH2とEDA40は明確な変化が見られなかった。IAA32/34は、長日条件では検出されず、黄化芽生えではフックの内側(凹面側)で検出された。IAA32/34 はフックの両側で発現していることから、フックの外側(凸面側)ではIAA32/34は合成後に分解されているものと思われる。IAA32/34 を過剰発現させた黄化芽生えは、発現量に応じてフック形成が抑制され、wav 三重変異体のような表現型を示した。しかしながら、過剰発現系統の根の形態に変化が見られないことから、IAA32/34はwav 変異体の根の表現型には関与していないことが示唆される。wav 三重変異体においてIAA32/34はフックの両側で検出されることから、フック凸面側のIAA32/34はWAVの作用によって分解されていると考えられる。IAA32/34は転写リプレッサーであり、ARF7/19の転写活性を阻害することで暗形態形成において細胞拡張を調節しているSAUR 遺伝子の発現を制御し、フックの細胞伸長を阻害しているものと思われる。野生型植物では、IAA32/34はフックの凹面側に蓄積して細胞伸長を抑制するが、wav 三重変異体やIAA32/34 過剰発現系統では、IAA32/34がフックの両側に蓄積して凸面側でも細胞伸長が有意に抑制されていた。一方、IAA32/34 の機能欠損変異体(iaa32 iaa34 二重変異体およびwav iaa32 iaa34 五重変異体)は、凹面側での細胞伸長抑制が有意に解除された。驚くべきことに、iaa32 iaa34 二重変異体と比較して、wav iaa32 iaa34 五重変異体ではフック細胞の伸長阻害が両側で有意に減少していた。このことから、WAVによるフック細胞の生長制御には、IAA32/34に依存しない別の機構も存在していると思われる。最近の研究で、フック凹面側のオーキシン量が高くなると、膜貫通型受容体様キナーゼ(TMK)のTMK1からDAR1ペプチダーゼによってC末端断片(TMK1c)が切断され、放出されたTMK1cがIAA32/34をリン酸化して安定化させ、ARFを介した遺伝子発現を変化させてフックの凹面側での細胞伸長を抑制することが報告された。このようなオーキシン-TMK1cを介した安定化により、TMK1cとIAA32/34はフックの凹面側で蓄積するが、IAA32/34 遺伝子の転写とWAVタンパク質量はフックの両側で比較的均一であった。したがって、凹面側ではTMK1cによってIAA32/34がリン酸化されることでWAVによる分解が阻害され、蓄積したIAA32/34が細胞伸長を阻害していると考えられる。以上の結果から、茎頂フックの凸面側ではWAV E3ユビキチンリガーゼによるIAA32/34のユビキチン化と分解によって、IAA32/34によるフック細胞の伸長阻害が解除され、凹面側ではTMK1cによるIAA32/34のリン酸化によって分解が阻害され、蓄積したIAA32/34が細胞伸長を阻害しており、TMK1cとWAVの拮抗的相互作用がIAA32/34量を制御することでフックが形成されると考えられる。

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