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植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)根毛によるイネ幼苗種子根の貫通能力の強化

2024-08-14 10:32:02 | 読んだ論文備忘録

Root hairs facilitate rice root penetration into compacted layers
Kong et al.  Current Biology (2024) 34:2039-2048.

doi:10.1016/j.cub.2024.03.064

圧縮された下層土は、根の下方向への伸長に悪影響をおよぼし、より深い深度の水や養分への接触を妨げる。中国 上海交通大学Huangらは、根が強固な層を貫通する能力を評価するために、1 %寒天の上層と3 %寒天の下層からなる実験系でイネ実生を育成し、種子根の伸長を観察した。その結果、根は境界に接触した後に湾曲し、成長角度を変化させることが判った。根の伸長や湾曲はオーキシンによって制御されているので、DR5-VENUSレポーターによりオーキシン応答を見たところ、3 %寒天層に遭遇すると、根端と伸長部の表皮細胞でオーキシン応答が上昇することが明らかになった。この結果は、機械的障害が根端組織で局所的なオーキシン応答を引き起こすことを示唆している。オーキシン生合成に関与しているYUCCA ファミリー遺伝子のうち、イネの種子根伸長に最も影響しているOsYUCCA8OsYUC8)は、3 %寒天層に遭遇すると根端部での発現が強くなった。osyuc8 変異体では、根が3 %寒天層に遭遇した際のDR5-VENUSレポーターやオーキシン応答遺伝子OsIAA20 の発現誘導が見られなかった。これらのことから、機械的障害に伴って根端組織で観察されるオーキシン応答の上昇は、OsYUC8に 依存していると考えられる。osyuc8 変異体の根は、二層寒天実験系において野生型植物の根よりも屈曲角度が大きくなった。また、野生型植物の根をオーキシン生合成阻害剤のユカシンで処理すると、未処理のosyuc8 変異体と同等の表現型を示した。したがって、OsYUC8を介したオーキシンの生合成は、硬い層への根の侵入を促進するために必要であると考えられる。根毛の伸長はオーキシンによって制御されることが知られており、幼苗の土壌浸透性の向上と関連している。そこで、根毛の長さを調べたところ、低密度寒天実験系(1%/1%)に比べ、二層寒天実験系(1%/3%)で生育した野生型植物の根毛は長いことが判った。しかし、osyuc8 変異体やユカシン処理した根では、二層寒天実験系での根毛伸長誘導は完全に抑制された。このことから、OsYUC8を介したオーキシンによる根毛伸長促進は、硬い層に遭遇した際にイネの根の侵入を助けている可能性がある。オーキシンを介したイネ根毛の伸長促進は、根端から根毛領域へオーキシンを輸送しているOsAUX1に依存している。そこで、osaux1 変異体でのDR5-VENUSオーキシン応答レポーターの発現を見たところ、根が3 %寒天層に遭遇した際のオーキシン応答の上昇が阻害されていることが判った。osaux1 変異体の根は、3 %寒天層を貫通する能力が低下しており、代わりに3 %寒天層の境界に沿って水平に生長した。したがって、根の伸長領域でのOsAUX1によるシュート方向へのオーキシン輸送に依存するオーキシン応答の増大も、硬い層への根の侵入を促進する上で重要な役割を果たしていることが示唆される。OsAUX1によるオーキシン輸送は、根の重力屈性や根毛伸長に関与しており、osaux1 変異体の根は、重力屈性が低下し、3 %寒天層に遭遇しても根毛は短いままであった。osaux1 変異体で観察された貫通障害の表現型は、合成オーキシンの1-ナフタレン酢酸処理により回復した。さらに、野生型植物の貫通能力は、オーキシン処理によってさらに増大した。また、オーキシン処理によって野生型植物では根毛が長くなり、オーキシン変異体では根毛長の欠損が完全に回復した。以上の結果から、オーキシンは根毛の伸長を促進することで根の貫通を促進していると考えられる。根の硬い層の貫通において根毛の伸長が重要であるかを評価するために、根毛伸長の変異体(roothairless1cellulose synthase-like D1)を用いて解析を行なった。根毛変異体は、均一な硬さの寒天で生育させた場合の根の伸長能力は野生型植物と同等であり、根の重力応答においても明らかな違いは見られなかった。一方、二層寒天実験系では、根が3 %寒天層に遭遇した際に根毛変異体の根は野生型植物よりも屈曲が促進された。さらに、根毛変異体はオーキシン処理による貫通能力変化が見られなかった。したがって、根毛遺伝子は根毛を介した根の貫通の制御においてオーキシンの下流で機能していることが示唆さる。これらの結果は、根毛変異体は硬い層を貫通することが困難であることを示唆しており、osyuc8 変異体の表現型と類似している。根毛は、根が土壌を貫通するための固定場所を提供することで芽生えの活着を助けることが報告されている。野生型植物の根を引き抜くのに必要な力は、寒天層の密度が異なっても、根毛変異体に必要な力よりも有意に大きかった。この結果は、根毛の長さが長くなると、生長した根の先端が硬い層を貫通するための固定が強化されることを裏付けている。以上の結果から、根毛の伸長は、圧縮層への効果的な根の侵入に必要であり、根端が圧縮層に接触すると、OsYUC8によるオーキシンの生合成とOsAUX1による根毛帯への輸送が促進され、その結果、より長い根毛が形成されて根の侵入のための固定が強化されると考えられる。

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