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論文)イネ分けつ角度制御の分子機構

2018-09-05 21:56:38 | 読んだ論文備忘録

A Core Regulatory Pathway Controlling Rice Tiller Angle Mediated by the LAZY1-Dependent Asymmetric Distribution of Auxin
Zhang et al. The Plant Cell (2018) 30:1461-1475.

doi:10.1105/tpc.18.00063

イネの分けつ角度は、収量に影響する重要な農業形質である。分けつ角度に影響する幾つかの遺伝子が同定され特徴づけられているが、それらの遺伝子による分けつ角度の制御経路についての詳細は明らかとなっていない。過去の研究から、イネの分けつ角度は重力刺激応答性と強く関連していることが示されている。そこで、中国科学院 遺伝・発育生物学研究所Wang らは、イネ幼苗を横に倒して重力刺激を与え、基部のトランスクリプトームの変化を12時点、8時間にわたって経時的に解析した。その結果、重力刺激を与えていない対照と比較して、少なくとも連続する2時点で発現量が異なる遺伝子(DEG)を4204見出した。これらのDEGを発現時期によって、初期に発現している98DEG、後期に発現している3246DEG、初期‐後期ともに発現している860DEGにグループ分けし、さらにこれらのDEGを発現プロファイルによってクラスターに分け、初期DEGを2つのクラスター(EC1、EC2)、初期‐後期DEGを4つのクラスター(DC1~DC4)、後期DEGを4つのクラスター(LC1~LC4)に分類した。EC1、DC1、DC2、LC1、LC3は発現量が増加する遺伝子で、他は発現が抑制される遺伝子のクラスターとなっている。EC1 DEGの遺伝子オントロジー(GO)は、「小胞体でのタンパク質プロセッシング」に分類されるものが多く含まれており、重力刺激応答にはタンパク質プロセッシングが関与していものと思われる。DCクラスターには「植物ホルモンシグナル伝達」や「転写調節活性」に分類されるものが多くなっていた。LCクラスターのGOの種類はECやDCよりも多いことから、重力刺激応答後期は様々な生物学的過程が起こっているものと思われる。重力屈性応答にオーキシンが関与しているが知られている。重力刺激で発現誘導されるDC1、DC2、LC1、LC3クラスターにはオーキシンによって活性化される遺伝子が多く含まれており、重力刺激で発現抑制されるDC4、LC2、LC4クラスターにはオーキシンによって発現抑制される遺伝子が多く含まれていた。しかしながら、ECクラスターではオーキシン応答遺伝子は多く含まれていなかった。このことから、重力刺激の初期応答ではオーキシンは関与していないものと思われ、EC1クラスターには重力屈性においてオーキシンの上流で機能する遺伝子が含まれていると考えられる。EC1クラスターにおいて3つの転写因子遺伝子HEAT STRESS TRANSCRIPTION FACTOR 2DHSFA2D )、MADS57EARLY PHYTOCHROME RESPONSIVE1EPR1 )が重力刺激によって直ちに発現誘導されることが判明したので、その中のHSFA2D のノックアウト変異体hsfa2d について表現型を観察したところ、分けつ角度が野生型よりも大きくなっていた。また、hsfa2d 変異体の幼苗は重力刺激に対する応答性が低下していた。したがって、HSFA2D は重力刺激応答を介して分けつ角度の調節に関与していることが示唆される。野生型イネをオーキシン処理してもHSFA2D の発現は誘導されないことから、HSFA2D はオーキシン作用よりも上流において分けつ角度を制御していると考えられる。標識したオーキシンを用いた実験の結果、hsfa2d 変異体では幼苗に重力刺激を与えた際に見られるオーキシンの不均等分布が起こらないことがわかった。よって、hsfa2d 変異体ではオーキシンの側方向輸送が低下していることが示唆される。以前に見出されたイネの分けつ角度を制御する因子LAZY1(LA1)は、オーキシン輸送に関与してオーキシン不均等分布を誘導していることが報告されている。hsfa2d 変異体ではLA1 の発現量が減少しており、la1 変異体ではHSFA2D の発現量に変化は見られなかった。la1 変異体とhsfa2d la1 二重変異体の分けつ角度の大きさは同等であり、hsfa2d 変異体でLA1 を過剰発現させることで分けつ角度の回復が見られた。これらの結果から、HSFA2DLA1 によるオーキシン不均等分布の正の制御因子として機能して分けつ角度を調節していると考えられる。オーキシン不均等分布形成後に分けつ角度制御に関与する遺伝子として、DCクラスターに含まれるオーキシン応答転写因子遺伝子について解析し、WUSCHEL RELATED HOMEOBOX6WOX6 )とWOX11 が重力刺激に応答していることを見出したので、詳細な解析を行なった。その結果、WOX6WOX11 はオーキシンによって発現誘導され、重力刺激後の発現が下側に偏り不均等になることを見出した。CRISPR/Cas9(CR)を用いて作成した変異体の表現型を解析したところ、wox6 およびwox11 の単独変異体は分けつ角度に異常は見られなかったが、wox6 wox11 二重変異体は分けつ角度が広がり、重力刺激応答が低下していた。また、hsfa2d 変異体、la1 変異体では重力刺激後のWOX6WOX11 の不均等な発現誘導が低下していた。以上の結果から、HSFA2DLA1 の発現を調節することでオーキシンの不均等分布をもたらし、このことによって誘導されるWOX6WOX11 の不均等発現がイネの分けつ角度を制御していると考えられる。

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