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論文)アブシジン酸によるイネ種子劣化の抑制

2024-08-06 16:34:03 | 読んだ論文備忘録

ABA Inhibits Rice Seed Aging by Reducing H2O2 Accumulation in the Radicle of Seeds
Zheng et al.  Plants (2024) 13:809.

doi:10.3390/plants13060809

種子劣化(seed aging)は、抗酸化システムの低下、細胞膜の破壊、遺伝子の損傷、脂質の過酸化、タンパク質の分解など、種子活力(seed vigor)がに低下することを特徴とする不可逆的な過程である。活性酸素種(ROS)は種子劣化の主要な因子として機能しており、植物ホルモンは、種子の成熟と活力の制御に不可欠な役割を果たしていることが知られている。イネ種子を用いた研究から、アブシジン酸(ABA)濃度の増加と過酸化水素(H2O2)濃度の抑制が種子劣化の抑制につながることが報告されているが、ABAによる種子劣化の制御がROSと関係しているのか、あるいはどのように関係しているのかは不明である。中国 湖南農業大学のYeらは、イネ(Zhong Hua 11)種子を相対湿度100 %、45 ℃の密閉容器に入れて人工的に劣化させ、処理後の発芽率を調査した。その結果、未処理種子はほぼ100 %の発芽率を示したが、24時間および48時間処理した種子の最終発芽率はそれぞれ約60 %および40 %であり、72時間処理した種子ではほぼ完全に発芽しなかった。2,3,5-トリフェニルテトラゾリウムクロライド(TTC)染色を用いた分析では、48時間処理イネ種子の根鞘、幼根、幼葉鞘の染色性が対照に比べて弱く、特に幼根の生存率が低下していることが示された。これらの結果から、劣化処理はイネ種子の発芽と幼苗の生長に悪影響を及ぼし、特に幼根は劣化処理に対してより敏感であると考えられる。劣化種子のH2O2蓄積を見たところ、劣化した種子の胚はH2O2含量が有意に高く、特に幼根において高いことが判った。ABAは、種子の活力調節に重要な役割を果たしており、過去のトランスクリプトームデータにおいて、劣化処理によってABA異化酵素をコードするOsABA8ox2 の発現が誘導されることが報告されている。そこで、種子劣化に対する OsABA8ox2 の影響を評価したところ、OsABA8ox2 過剰発現系統では、劣化が促進され、種子発芽が劇的に低下することが判った。一方で、CRISPR/Cas9法で作出したOsABA8ox2 ノックアウト系統は、種子中のH2O2濃度が野生型植物よりも有意に低く、種子老化に対する抵抗性が強化されていた。このことから、ABAは劣化処理中種子のH2O2濃度を減少させると仮定し、種子をABAで前処理をして48時間の劣化処理をしたところ、H2O2蓄積が対照よりも減少した。また、OsABA8ox2 ノックアウト系統種子と同様に、ABAおよびROS生産を抑制する効果のあるジフェニレンヨードニウムクロリド(DPI)で前処理した種子は、劣化処理において対照よりも高い生存率を示し、発芽率、幼根生長、幼苗生長は、劣化処理していない野生型種子と同等となった。以上の結果から、ABAは、幼根のH2O2蓄積を減少させることにより、イネ種子の劣化を緩和させていると考えられる。

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