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植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)ストリゴラクトンによるトマト花成の促進

2024-08-10 10:49:00 | 読んだ論文備忘録

Strigolactones promote flowering by inducing the miR319-LA-SFT module in tomato
Visentin et al.  PNAS (2024) 121:e2316371121.

doi:10.1073/pnas.2316371121

ストリゴラクトン(SL)は、カロテノイド由来の植物ホルモンで、腋芽の伸長や根の発達などに影響を与えることによって植物の形態形成を制御している。また、いくつかの植物種において、SL変異体が花成の抑制や遅延、花数の減少といった生殖生長異常を示すことが報告されている。しかしながら、SLの花成制御における分子機構は明らかではない。イタリア トリノ大学Cardinaleらは、SL生合成に関与しているCAROTENOID CLEAVAGE DIOXYGENASE 7CCD7)をサイレンシングさせたトマト(SL-)を用いて、SLと花成の関係を調査した。SL-の台木に野生型植物(wt)を接いだwt/SL-株は、葉でのSL生合成が活性化されて内生SL量が高くなる。この植物体とwt/wt株、SL-/SL-株の花成を比較したところ、wt/SL-株の花数は、wt/wt株の2倍以上となり、SL-/SL-株の花数は著しく減少することが判った。また、wt/SL-株はwt/wt株よりも開花までの期間が短く、開花時期と開花時の葉数は相関していた(すなわち、wt/SL-株の開花時の葉数はwt/wt株よりも少ない)。さらに、トマトのFLOWERING LOCUS TFT)ホモログであるSINGLE FLOWER TRUSSSFT)の転写産物量は、葉におけるSL生合成経路の転写活性と正の相関があり、wt/SL-株はwt/wt株よりも高い値を示し、SL-/SL-株は最も低い値を示した。花成におけるSLの役割をさらに解析するために、合成ストリゴラクトンアナログGR245DS溶液を葉に散布したところ、分裂組織の成熟が加速して花成が有意に促進され、葉のSFT 転写産物量と花数の増加が見られた。SL-植物と野生型植物のRNA-seqを行ない、発現量が異なる遺伝子のGOを見たところ、発生過程(GO:0032502)に関連する遺伝子、特に生殖関連(GO:0000003)の遺伝子は、SL-植物で発現が低下していることがわかった。さらに、光周性(GO:0048573)、花成(GO:2000028)、花発達の制御(GO:0009909)、花分裂組織決定(GO:0010582)、分裂組織の生殖への相転移(GO:0010228)、花器官形成(GO:0048444)に関連する遺伝子に発現量の変化が見られた。また、SL-植物で発現が低下している遺伝子には、SFTSELF PRUNING 6ASP6A)、SQUAMOSA-PROMOTER BINDING PROTEIN-LIKE 3SBP3)のようなFT 様花成関連遺伝子が含まれていた。さらに、SFT の発現を阻害するTCP転写因子LANCEOLATELA)の発現が有意に上昇していた。マイクロRNAのmiR319は、LA をターゲットとしており、花成に対して促進的に作用する。野生型植物の葉にGR245DSを散布したところ、成熟miR319がかなり早期に誘導され、次いでLA が抑制され、SFT が誘導された。また、開花までの期間が短縮された。miR319非感受性のLALAm)を発現させた植物は、GR245DS処理の効果が見られず、GR245DSによる開花時期の短縮には、LA 転写産物のmiR319依存的な分解が必要であることが示された。したがって、SLによるSFT 活性化は、miR319によるLA 転写産物量の低下に依存していると考えられる。GR245DS処理は、葉での花成誘導系に影響するだけでなく、茎頂分裂組織においても相転移や花器官の発達に関与する遺伝子の発現に対して促進促進的に作用していることが確認された。ジベレリン(GA)はトマトの花成に対して抑制的に作用しているので、SLによる花成促進にGAが関与しているかを調査した。その結果、SL-植物では生物活性ジベレリンの生合成を触媒する酵素遺伝子の発現が上昇しており、活性型GA含量が高いことが判った。このことから、SL-植物ではジベレリンが開花遅延と花数減少に寄与している可能性が示唆され、SLはGAによる阻害を緩和することによっても花成を促進する可能性がある。以上の結果から、ストリゴラクトンは、miR319-LA-SFTモジュールを活性化することでトマトの花成を促進しており、活性型GA含量の減少も部分的に寄与していると考えられる。

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