写真の右側が、元プロボクサー・カシアス内藤。古くからのボクシング・ファンなら、元東洋ミドル級チャンピオンだったけな、という記憶があるはず。通算戦績、39戦して27勝(13KO)10敗2引き分け。波乱のボクサー人生だった。
片や、左側。その名前ほど顔は知られていないものの、知る人ぞ知るルポライター、沢木耕太郎。
かつて2人は,若くして出会い、「クレイになれなかった男」を沢木は書く。
その後も、沢木は峠は過ぎた内藤の再起戦のマッチメイクに奔走。海外渡航や試合のカネをかき集めるなどした。
2人の見果てぬ夢を書き綴った私的ルポルタージュ「一瞬の夏」は、全盛期のカシアス内藤を知るボクシングファンはもちろん、さまざまな層に広く読まれた。名著と言っていいだろう。
今は多くのヤクザもののビデオ映画に、かつての体験を生かして出ている大和武士(やまと・たけし)は、少年院に入っていたころ、この本を読んで、プロボクサーを志し、日本ミドル級チャンピオンにまで上り詰めた。
また、つい先ほど世界チャンピオンのベルトを失って、引退を余儀なくされている西岡利晃もまた、この1冊を「私のバイブル」とまで言い切り、アメリカへ試合に行く前に、当の沢木をジムに呼んでもらって会い、ボクシング・マスコミのカメラに収まった。
スポーツ新聞やインターネットなどで、それを目にした人もいるかもしれない。
そんな2人が、ひさびさの再会。そう思った。「感動の」という3文字は、無いにしても。
その2人は、今や60歳の坂を越えた。カシアス、63歳。そして、沢木はこの11月29日で65歳を迎える。
この日、試合を互いに見つめながら、カシアスが折々に選手の闘い方を説明。そして、この談笑(写真上)。
私自身も、2人とは各々、インタビュー取材を通して、知っていた。
その後、沢木と、藤圭子との恋についても書いた。雨が降りしきる新宿御苑前のビルの下。藤が、沢木に泣いてすがっていた。まさか! と思いつつ、確認の意味も兼ねて、逢瀬中の2人に声をかけた。
その後、取材を重ね、事実のみを書いた。
彼と1人娘とおぼしき女性が、ひょんな所にいたのを見かけたこともある。ちなみに、1人娘と、宇多田ヒカルは同い年だ。
カシアスは7年前、横浜の石川町駅近くのビルの2階に「E&Jカシアス・ボクシングジム」を開設。今もそこの会長をしている。
ジム名の「E」は、カシアスを熱い想いと共にボクシングを教えた名トレーナー、故・エディー・タウンゼントのイニシャルのEをとったもの。
そして、「J」は、カシアスの本名の内藤純一の純のJから付けた。
そのカシアスに電話をしたのは、今年の5月。彼のジム所属のプロボクサーの年齢や、今までの戦績を聞いた。ジムのホームページにも載っていなかったからだ。
電話に出たのは、会長のカシアス。
「教えられないね。個人情報だから」
はあ? ホントに? 信じられない言葉だった。別に、そのプロボクサーの、今住んでいる住所や電話番号を聞いてる訳じゃない。フツ―、大概のジムは対外的にも、戦績は公表している。
しかし、かたくなにカシアスは、個人情報を盾に話さず。電話は、語気荒く切られた。
一体全体、どうしてしまったんだろうか?・・・・・・
幸いにもというべきか、そのボクサーは他のジムから移籍してきた人だったので、調べて前のジムへと聞くことが出来た。
ちなみに、そのプロボクサーは、今もって「所属ボクサー」の欄に、その名は無い。
それ以来だった。上の写真もカシアスは撮られていることに気付き、こちらへ視線を投げた。怒ったら、撮るのを止めるつもりだったが、気にも留めない表情だった。
沢木が1人になった時に、聞いた。
内藤さんとは、久しぶりの再会だったんですか? 今日のボクシングの試合のチケットが送られてきたりして、見にきて下さい、とか。
聞かれて、怪訝な顔。
「いや、いつも会ってるから」
えっ! いつも? 今も、交流があるのか。
「だって、このジム、一緒に作ったんだから」
えっ!? 一緒に? てことは、お金も出しあって?
さらに続けて聞こうとした瞬間、沢木はスルリと身をかわして、行ってしまった。これ以上は、話したくないということか。
かつて、カシアス内藤が雇われ会長として、銀座に女性向けボクササイズのジムをオープンしたことがあった。インタビューした縁からだろう、私にでさえセレモニーの招待状が届いたくらいだった。
そのジムも、ほどなくして閉鎖。
プロボクサーを育てるジムを開設するには、むろんそれなりの広さのスペースを借りなければいけない。それも、選手が通いやすいように、駅の近くが最適だ。
さらに、防音設備、リング、サンドバック、パンチング・ボール、など諸費用、床の強化、シャワー室、更衣室の間仕切りなど、かなりのお金が必要だ。
そのうえ、プロボクシングジムを始めるにあたっての申請料的お金が、バカ高い。
以前は、チャンピオンが会長となって始める場合は、300万円で済んでたはずが、いつの間にか、一般人と同じ扱いとなり、1000万円が必要と変わった。
私が知ってる元東洋・太平洋チャンピオンは、「俺、1000万円なんか用意できないよ」と、妻とともにこぼしていた。いまだにアマチュアを育てながら、エクササイズが中心のジムとして、やっている。
大きなスポンサーがいなければ、開設も立ちいかないのが、現状だ。
だから、「一緒に」ということは、名前こそ表面に全く出てこないが、沢木も共同経営者として大金を出したのではないか?
かつては高額納税者名簿に名前が載ったこともある沢木。むろん、本名の全く別の名前でだが。
前年出した「深夜特急」が売れたこともあり、約3800万円の印税著作料の収入があった。その30パーセント近くが税金で取られるのだが、そんなカネも投入したのかもしれない。カシアス内藤のために、再びか。
2人は、エディー・タウンゼントの墓に報告にまで訪れているのだ。
ジムのスタッフたちに聞いた。
「そうみたいです。詳しくは、お金が絡むことなんで、私たちには分かりませんが」
ジムには、沢木さん、よく顔を出すんですか?
「いえ、練習も見に来てないと思いますよ。お忙しい身ですしね。ただ、今日みたいな、ウチの興行の試合がある時には、必ずいらっしゃいますね」
その近くでは、編集者とおぼしき4人が沢木をつかまえて、挨拶とあわただしく、打ち合わせ。確かに、忙しそうだ。
この日のメインには、会長である内藤純一の息子、内藤律樹(りっき)がリングに上がった。高校生の時、インターハイなどで3冠を手にして、プロ入り。現在21歳。
プロデビューして1年2か月で、4戦4勝。うち3KO。東洋・太平洋スーパーフェザー級13位まで上がってきた。この日もタイの中堅選手を相手にして、ジャブを放ち、絶えずリードし、4ラウンド、レフェリーストップのテクニカルKO勝ちを収めた。
沢木と、父である純一は、リング近くの最前列で、再び2人並んで観戦。純一は、セコンドにも立とうとしない。声援、アドバイスも一切送らないまま。
相手のタイ人ボクサーは、日本に勝ちに来た姿勢が見て取れた。律樹が勝つと、沢木はセコンドに付いていたトレーナーと喜びのタッチ。
控室の中での、律樹への囲み取材。
誰が用意したのか、イスが2つ。律樹の隣りには、会長であり父でもある純一が座って、勝ちを喜び合い、受け答えに加わると思った。ところが、すぐそばにいるにもかかわらず、移ろうともしない。
記者もジムのスタッフも、誰1人として勧めようともしない、ひと声も掛けない。
大抵は、例え照れて座らなくても、感想を一言いったり、冗談やチャチャをいれたりして、雰囲気をなごましたり、笑わせたりする光景が目に付くのだが 、それすら無い。
5月の、電話での応対が思い起こされた。ボクシング・マスコミと、何かあったのだろうか。
少なくとも、かつて北村ダビデという所属選手を取材した時には、純一はごくフツ―に応対したし、話しはしてくれた。
こんな冷ややかな空気は漂わなかった。この夜、純一に、個別に感想を求める記者や関係者や支援者も、1人としていなかった。記者たちは、律樹に聞くことを聞き終えると、そそくさと引き揚げていった。
まずいな、と思った。
少なくとも、内藤律樹は、強打だけではない。容易に打たせない上手さも持っている逸材だ。これで、5戦無敗だから、記者は取材に来る。おそらく、日本のチャンピオンくらいにはこの先、なるだろう。
誰もがすり寄ってくる大手のジムではない。この日の観客の入り、5割。1000人弱に過ぎない。
上の写真の空席を見れば、それがより分かるだろう。この時、セミ・ファイナルの試合が行われていたというのに・・・・・・・。
他のスポーツに較べて、ボクシングの扱いは小さいとはいえ、マスコミとの良好な関係は、重要だ。選手を売り出してゆく、したたかな戦術も。
経営者としてのジム会長が、人嫌いの孤高のヒトでは、いけない。
強ければ、マスコミや支援者が永遠に、引きも切らないなどということは、まず無い。プラスアルファが無ければ続かない。観客も増えない。
会長として、そのことを肝に命じて欲しい。釈迦に説法と知りつつ、失礼を承知で書き置く。
記者たちが去った後、律樹に聞いた。
沢木さん、そのうち君を書きたいとか、いずれ書くよ、とか言ってきてない?
「いや、全然、ありません」
これを書くに当たって、インターネットを見た。ジム開設時に「カンパを募った」とか、「沢木が協力した」とだけ出ていた。
「一緒に作った」とは、そんなくくりを越えたものだ。
カシアス内藤、そして沢木耕太郎。2人だけの一瞬の夏は、命尽きるまで、熱く続きそうだ・・・・・・・
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2023・1・10 追記
おお、久しぶりに、沢木をテレビで見かけた
桑子は、インタビュー、ドヘタ
にしても、沢木の最新作
ひどく、つまらない
読むに、値しない
ただただ、余分に長いだけ
メリハリ、盛り上がり、皆無
見かけて、読んだのは11月
坂本龍一の、連載インタビューが載っていた「新潮」で、2号にわたって、連載されていた
ただ、だらだら
買う価値、ない
図書館に行って、読んでごらん