母がまだ今より少し元気だった頃、住まいの脇の空き地を耕して
畑を作っていた。
コンクリートの団地のどこに空き地があるのだろうと思っていたら
母の部屋は1階で、その入口近くに土のある場所がちょっとだけあり、
本当は共有場所なのだろうけど、それを母は「畑」にしたのだった。
葉ものを植え、それが青青と育つと団地の他の住人のだれかれに配り、
喜ばれていた。みそ汁の具にしたり浅漬けにしたりするのである。
誰が作っているのか、毎日見ているのだから、もらう方も安心している。
小さな小さな畑である。
今はもうずいぶん弱って、外に出てもちょっと歩いてみるくらいだから
この畑は荒れたようだ。母に言わせると、一年も放っておいたらただの
土くれだからという有り様らしい。
昨夏には姉たちが行き雑草を取ったりしたと聞いたが、もとより忙しい
勤め人だから耕したりまではしない。
自分で作った野菜を食べていた頃、今より母は勢いがあった。
ときどき電話で文句を言い合ったりした。
生きる勢いがあふれて、はみだして、互いを傷つけた。
数年前に撮った上の写真、母に会いに帰った日のものだ。
この日、母は曲がった腰が少し伸びていた。
あさつきを摘んで、食べさせてくれた。