(放射能数値がとても高かった辻、九度目の
若葉、あわあわとした緑色が風にそよいで
いたが、心中のモノクロの景色と重なり、
ここを通るたびに、そのことを思いながら
ハンドルを切る)
福島市在住の中村晋さんの第一句集、
「むずかしい平凡」からの抜粋。
「燕来るフクシマに田を棄てぬ人に」
「桃捨ててふくしまをなお愛すなり」
中村さんは高校教師だ。約26年の
俳句歴で俳誌「海程」(金子兜太主宰)で
新人賞、以後、海程賞を二度受賞。
この句集は福島原発事故以前と当時と、
その後の三部で構成されている。
タイトルが、原発事故後に直面せざるを
えなかった日常の、望まぬ感慨であろう
ことは福島の人には容易に想像できる。
「フリージアけっこうむずかしい平凡」
中村さんは夜学の先生で、働きながら
通学する生徒を思う句がいくつもある。
自分の家族を思うのと同じくらいに
他者へ、教え子に注がれている眼が
俳句のなかにあり、やさしさや不条理に
胸を痛める様が伝わってくる。
「八月や屋根も柱もない国家」
コロナ渦をリーマンショックより打撃だと
いうが、福島はあれ以来、今日なお失い
続けている。
「国家」を信じてきた人を裏切り続け、
暴政の正体は今、さらにはっきりと姿を
現してきた。
経済、金融を基準にして物事を計るのを
当然と考え、それ以外のことがすっぽりと
抜け落ちて想像できない人が賢いふりを
している。それがまかり通るのは、この国
が本当に豊かではない何よりの証拠だろう。
あちこちで、田に重機が入り土を掘り返し
ダンプで運ばれた赤黒い土でまた埋められ
て、砂利で固められていく。何をやっている
のか告知板もないのでわからないが、、
環境省が進める放射能汚染土の再利用と
いう愚策を受け入れた場所なのだろう。
近隣に住宅があり、県道、村道が通る傍、
通学の子どもや散歩する老人。
福島は、この三十数年の歳月をかけて
果樹や酪農、米作りの技術を高め、
ブランド育成も力を入れてきた。
自然の豊かさもあわせて美しまふくしま
のコピーで観光客も増えた。
移住者はようやく収穫できるように
なり定着しようかという矢先のこと、
原発事故で中断した。
土地を去る人、去らざるをえない人、
被害を訴えれば、風評被害を煽るなと
住民同士で対立もしながら、元は一つ
同じ故郷なのだから。
育てた土を捨てて、また一から土を作る、
木の皮を剥ぎ、枝を伐り落とし、
また育てなおして、低い価格でも出荷する。
雀の涙の補償金では失ったものと引き換え
になりようがない。
失った者にしかわからないというのでは
あまりに寂しく辛いことだ。
土に生きることを忘れない人がいて
国土は保たれてきた。
むかしも今も、それは同じだ。
土に立ち、風を読み、考え、耕す。
売り買い以前のこの営みを尊重せず、
物を動かし暴利を得る仕組みで支配
する。それが権力とつながっている。
種苗法改正案を閣議決定した政府は
誰のための政府か。
改正案ではなく、根こそぎ農業をダメ
にしてしまう改悪である。
今、生産者の立場に立った仕組み作りに
しようと若者たちが、知恵を絞っている。
自分たちの未来のために、
そしてボーダーレスの世界のために。
それは、少しだけ明るい希望だ。
世界中にフクシマの悲劇はある。
コロナ後の世界は、どこへ向かうか。
中村晋句集 「むずかしい平凡」
本体価格1400円 (税・送料別)
お求めは下記まで。
bonekobooks@gmail.com
若葉、あわあわとした緑色が風にそよいで
いたが、心中のモノクロの景色と重なり、
ここを通るたびに、そのことを思いながら
ハンドルを切る)
福島市在住の中村晋さんの第一句集、
「むずかしい平凡」からの抜粋。
「燕来るフクシマに田を棄てぬ人に」
「桃捨ててふくしまをなお愛すなり」
中村さんは高校教師だ。約26年の
俳句歴で俳誌「海程」(金子兜太主宰)で
新人賞、以後、海程賞を二度受賞。
この句集は福島原発事故以前と当時と、
その後の三部で構成されている。
タイトルが、原発事故後に直面せざるを
えなかった日常の、望まぬ感慨であろう
ことは福島の人には容易に想像できる。
「フリージアけっこうむずかしい平凡」
中村さんは夜学の先生で、働きながら
通学する生徒を思う句がいくつもある。
自分の家族を思うのと同じくらいに
他者へ、教え子に注がれている眼が
俳句のなかにあり、やさしさや不条理に
胸を痛める様が伝わってくる。
「八月や屋根も柱もない国家」
コロナ渦をリーマンショックより打撃だと
いうが、福島はあれ以来、今日なお失い
続けている。
「国家」を信じてきた人を裏切り続け、
暴政の正体は今、さらにはっきりと姿を
現してきた。
経済、金融を基準にして物事を計るのを
当然と考え、それ以外のことがすっぽりと
抜け落ちて想像できない人が賢いふりを
している。それがまかり通るのは、この国
が本当に豊かではない何よりの証拠だろう。
あちこちで、田に重機が入り土を掘り返し
ダンプで運ばれた赤黒い土でまた埋められ
て、砂利で固められていく。何をやっている
のか告知板もないのでわからないが、、
環境省が進める放射能汚染土の再利用と
いう愚策を受け入れた場所なのだろう。
近隣に住宅があり、県道、村道が通る傍、
通学の子どもや散歩する老人。
福島は、この三十数年の歳月をかけて
果樹や酪農、米作りの技術を高め、
ブランド育成も力を入れてきた。
自然の豊かさもあわせて美しまふくしま
のコピーで観光客も増えた。
移住者はようやく収穫できるように
なり定着しようかという矢先のこと、
原発事故で中断した。
土地を去る人、去らざるをえない人、
被害を訴えれば、風評被害を煽るなと
住民同士で対立もしながら、元は一つ
同じ故郷なのだから。
育てた土を捨てて、また一から土を作る、
木の皮を剥ぎ、枝を伐り落とし、
また育てなおして、低い価格でも出荷する。
雀の涙の補償金では失ったものと引き換え
になりようがない。
失った者にしかわからないというのでは
あまりに寂しく辛いことだ。
土に生きることを忘れない人がいて
国土は保たれてきた。
むかしも今も、それは同じだ。
土に立ち、風を読み、考え、耕す。
売り買い以前のこの営みを尊重せず、
物を動かし暴利を得る仕組みで支配
する。それが権力とつながっている。
種苗法改正案を閣議決定した政府は
誰のための政府か。
改正案ではなく、根こそぎ農業をダメ
にしてしまう改悪である。
今、生産者の立場に立った仕組み作りに
しようと若者たちが、知恵を絞っている。
自分たちの未来のために、
そしてボーダーレスの世界のために。
それは、少しだけ明るい希望だ。
世界中にフクシマの悲劇はある。
コロナ後の世界は、どこへ向かうか。
中村晋句集 「むずかしい平凡」
本体価格1400円 (税・送料別)
お求めは下記まで。
bonekobooks@gmail.com