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映画・演劇のレビュー

『博士と彼女のセオリー』

2015-04-10 22:36:32 | 映画
『マン・オン・ワイヤー』のジェームズ・マーシュ監督作品なのだ。見ないわけにはいかない。ドキュメンタリーなのに、劇映画よりもドラマチックで、感動的。終始ドキドキさせられる映画だった。波乱万丈のストーリーではない。どちらかというと地味。だが、ビルとビルの間にワイヤーを渡す。そこを渡る。単純なことだが、こんなにもスリリングなことはない、と思わせる映画だった。

そんな映画を作った彼が、今度は劇映画に挑む。ホーキング博士の伝記映画だ。実在の人物でしかも存命。そんな人物の偉人伝を作る、というわけではない。病気と闘い、時間と戦い、宇宙の神秘を解明する。

とか、書きながら、実はホーキング博士の偉業なんて僕はまるで知らない。有名な物理学者であることは知っていても彼の業績なんか、とんと理解しない。では、この映画を見たらそれがわかるのか、と言われると、まるでわからない。宇宙の起源と謎を懇切丁寧に教えてくれる映画ではない。

では、これはラブストーリーなのか、と言われると、確かにそうなのだが、それだけではない。これはある事実をドキュメントした映画で、余命2年と言われた男と結婚し、彼を支えて、彼の研究と、幸せな家庭生活を作りあげた彼女の物語でもある。タイトル通りこれは彼と彼女のお話なのだ。

期間限定の人生の中で、その残された時間を全力で生きてみる。誰にだって永遠の命なんかない。せいぜい80年程度の時間しかないのだ。それが2年と言われたなら、その時間を充実させるしかないではないか。だが、ふつうなかなかそんなふうには割り切れない。理不尽だ、と駄々をこねたい。だって、ふつうみんな80年くらいは生きる。それなのに自分だけは後2年で、しかも、体の自由もどんどん利かなくなる。生きる気力を失うだろう。

なのに、彼女はそんな男と結婚し、子供を産み育てる。未来はないのに、未来に向けて生きていくのだ。そうするとそこに道が開ける。彼は死なない。5年、10年と生き延びる。(70を超えた今も健在なのだ。ふつうの人の寿命をしっかり全うしている!)それを愛の奇跡だとは言わない。ひとつの事実として描く。

映画は感動の押しつけはしない。しかも偉人伝でもない。ただ、あるがままに彼ら夫婦のドラマを綴っていくばかりなのだ。そうして描かれた2時間は長くもないし、短くもない。それはこの映画にとって当然の時間なのだ。

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