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映画・演劇のレビュー

そとばこまち『TURN』

2008-01-14 19:46:21 | 演劇
 そとばこまちが新アトリエを例によって十三に構えた。今回はその杮落とし公演となる。10編程のショートストーリーからなるコント集である。2時間ほどのショーは当たり障りのない内容で、見ていて少し退屈もするが、飽きることなく、なんとか最後まで見ていられる。

 観客参加型アトラクションを3度ほど挟んで、変化をつけようとしているし、とりあえず見に来てくれたお客に対して自分たちにできる最大限の<おもてなし>をしようと努力している姿勢は好ましい。さすがの老舗劇団らしく、まず観客を大切にする、という当たり前のことがよく理解されている。自分勝手な独りよがりにはならない。

 だが、1編1編の作品は、短い時間の中で何らかの自分たちの姿勢、考え方が反映されているかというと、残念ながら、そういうものはまるでない。まぁ、面白ければそれだけでもいいのだが、それも今一歩。仕上がりはかなり微妙なのだ。

 彼らが見せようとする「面白さ」は、単純な笑いではなく、うまくくすぐりをかけてくるようなデリケートなものを狙っているようで、それならば、あと少し見せ方やお話の構造に仕掛けがなくては、伝わりきらない。本当のところの「ねらい」が、実はあまりよく見えない。要するに、中途半端なのである。

 4話からなる『ビターカリー』なんてこれだけでちょっとした2人芝居なのだが、ラストのオチの付け方がつまらない。カレー屋が夜逃げする話だったなんて、そんな単純な話でここまで引っ張ってきたのか、と思うとがっかりである。求人なんてしていないのに面接にやってきた男に求められるまま面接を施し、よく解らない理由で採用するというエピソードのシュールさ、それがいいと思った。それがどこまで捩れていくのかとワクワクしたのに、なんだか騙された気分だ。わかりやすいオチが全てをぶち壊しにしている。

 ストーカーの話(ストーカーの男が自分から他の女に乗り換えてキレてしまう女)とか、落語スタイルで、短い芝居を作っていくというアイデアとか、けっこう考えられているものもあるにはあるが、全体的に単調で、あまりひねりがない。

 即興に近いものが特に酷い。こういう企画だからこそ、練りに練った構成が必要なのである。安易なものは削除して、もっとクオリティーの高いものを提示して欲しい。

 小原延之による傑作『シークレットライフ』3部作を作ったそとばこまちが、彼が抜けた後、方向性が定まらず迷走している。いろんな可能性を模索しているのが、現状だろう。まだしばらくはこういう状態が続きそうだが、ここから新しい魅力を持ったそとばこまちが生まれてくることを期待してやまない。

 かって、つみつくろうや上海太郎が劇団を担っていた頃から、生瀬勝久が劇団をリードしていた時代を経て、小原延之という才能を擁した集団が、さらなるタレントを抱え、新しい時代をこの新アトリエANAからスタートさせていく。08年が新生そとばこまちにとって最高の1年なってくれたならファンとしてはとてもうれしい。

 

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