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映画・演劇のレビュー

『ラッシュ・ライフ』

2009-12-31 20:56:46 | 映画
 思いがけない拾いものだ。東京芸大の学生が作った映画なのだが、従来の自主製作の学生映画ではない。衛星劇場やいくつかの企業も出資した一般用の劇場映画のスタイルになっている。キャストもプロの役者たちが主演している。伊坂幸太郎の原作を4人の監督が演出し、全体は1本の映画につながるように仕掛けられた。『フィッシュ・ストーリー』と同じ体裁になっている。短編連作であるにも関わらず、エピソードは完全に繋がっているから、各編の監督のカラーも抑えられてある。特に4話なんか、各エピソードの登場人物が絡んで来て全体の交通整理にもなっている。その分作家の個性はまるで出ないので気の毒なくらいだ。

 冒頭の第1話の残酷な描写はインパクトがある。死体を切り刻む場面を延々と見せる。それを主人公の柄本佑がスケッチする。まるで芥川の『地獄変』だ。ただし映画としては独り善がりで、これでは1本の作品としては成立しない。

 2話が一番おもしろい。このエピソードだけで1本の映画が作れるし、ぜひ見てみたい。堺雅人演じる男がすばらしい。泥棒なのだが、彼は盗みに入った家で過ごす静かな時間が好きだ、と言う。まるでキム・ギドクの『うつせみ』みたいだ。勝手に留守の家に入って自由に過ごす。そして、いくらかのお金を拝借していく。きちんと盗んだ額まで書き残して行く。とても律儀だし、礼儀正しい。瞬間移動ができるらしく、それが随所で披露される。夢か現実かよくわからないような不思議な感覚に見舞われる。

 3話は、自分が死んでいるのに、それに気がつかないまま生きている女の話。それってオチなので、ここに書いたらダメなのだが、ついつい書いてしまう。若い男と共謀して夫を殺して、その代償に男の妻も殺す、という、よくある契約交換殺人もの。それがほんのちょっと歪な展開をしていく。寺島しのぶ主演。

 4話は仕事を失い生きるすべをなくした男(板尾創路)の話。先にも書いたがこの話だけ、まとめを兼ねるから書き込みが浅くなっている。そのくせ全体はあまりすっきりとはまとまらない。特に1話の新興宗教の教祖の話は中途半端なままだ。全体を統べる総監督のような存在がいないからそうなったのだろうか。各エピソードがでこぼこにはならなかったのはよかったが、こういう映画には全体を統括するポジションの人物が必要だろう。

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