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映画・演劇のレビュー

窪美澄『晴天の迷いクジラ』

2012-06-30 09:43:03 | その他
 これも挫折を巡る物語で、先の『オン・ザ・ライン』同様、こっちもとことん暗い。この作者の前作『ふがいない僕は空を見た』はとても刺激的で挑発的な作品だったが、今回はあまりにオーソドックスで、読み続けるのが、かなりきつかった。つまらないというのではない。主人公の3人のそれぞれのドラマが、あまりにハードで、むきあうには、スタミナがなかったからだ。

 自分も今、いろんなことでボロボロの状態にあるから、現実以外でも、さらに追い打ちをかけるようなものは、読みたくはなかった。なんとか、最後まで読んだが、類は友を呼ぶというが、今の鬱状態がこういう小説を引き寄せるのだろう。なんかなぁ、である。3人の物語が語られた後、3人が鯨を見に行く話が描かれる4章構成というシンプルなスタイル。

 愛されることなく育った男。20代の青年。画家を夢見る少女が、妊娠から、育児ノイローゼ、失踪、デザイン会社の社長として成功するが、不況のあおりを受けて倒産する。40代の女性。過保護の母親に耐えられなくなるリストカット少女。もちろん、10代の少女。彼らが家族を装って田舎の村に滞在する。「生きろ!」というメッセージは確かに伝わるが、読んでいる身には、かなりきつい。

 続いて読んだ重松清『希望の地図』もまた、同じタイプの小説だった。こちらは不登校で、震災ネタである。もちろん、わかっている。この苦しみから立ち直らなくては未来はない。いつまでも、落ち込んでいるわけにはいかない。でも、現実で挫折しているのに、小説の中でまで挫折したくはないよな、と思う。もっと明るくて楽しい小説を読みたかった。しかし、3冊連続で、これである。この1週間フラフラなのに、電車の中でまで、フラフラになっているのだから救われない。

 ただ、3冊とも挫折の先にある光明を描いているから、実はほんのちょっと元気になれたのも事実だ。誰もが同じように挫折を抱えて生きている。自分の無力なんて今に始まった話ではない。そんなものにいちいち惑わされてヘロヘロしていても何も始まらないのだ。3・11の被災地の取材に同行した中学生の少年が見たものを共有することで、僕もいつまでもへこんではいられないと素直に思った。

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