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映画・演劇のレビュー

あうん堂『うえん内談はたムエン』

2008-03-30 21:50:50 | 演劇
 あうん堂の作品は最近とても優しい。それまでの社会的な視点とか、メッセージ性なんかが、薄まり、それよりもまず、目の前に居る人たち、彼らの姿を等身大に見せていくことを第一に考える。そこに暮らす人たちの哀歓を描くことで、社会とか時代とかいうものも背景から浮かび上がる。アプローチが少し変わっただけでしていることは一貫している。

 昔ながらの商店街。そこで暮らす面々が主人公だ。彼らは夜ごと集まっては、百人一首に興じる。そんな嘘みたいなお話。やってることは別にたいしたことではないが、そんな事をしてる人たちがいるなんて、ありえない。お酒や、ギャンブルならいざ知らず、カルタである! しかも40過ぎたおやじたちが、そんなことをしている。それを冗談ではなく、けっこうふつうに見せてくれる。

 すっかり寂れてしまって、このままでは店を畳むことになりそうな、どこにでもありそうな商店街。そこで暮らす人々。彼らは何代か前からここで暮らし、生計を立ててきた。それぞれが店をやっていて、幼なじみで、人の家に勝手に入ってきて、寝転がっていたりも出来る。今ではとても見ることが出来ない風景だが、それを当然のこととして見せてくれる。

 人と人との関係が希薄になり、誰かとつるんでいることが、困難になっている昨今、みんながそれぞれ『孤』として、他者との関わりを持つことなく生活していくことが当たり前になっていく中、他者と自己との垣根のない昔ながらの生活を守り続けていくことは困難になってきている。この芝居が見せようとするものは、どこにでもありそうに見えて、もうどこにもない奇跡のような風景なのかもしれない。ノスタルジーだとか、下町情緒、なんていう言葉では括れない当たり前の風景として、それが綴られる。

 いい年したおやじが、とっちゃん、とか、さとぼー、とか、よっちゃん、とかいいあうなんて、ありえない。彼らには大人の関係なんかない。昔ながらの変わることないつきあいが続いているだけなのだ。何も考えていない。昨日と同じ明日が続く。不景気の波が押し寄せてきて、生活はどんどん苦しくなる。でも、彼らは細々とこの営みを続けていく。きっと少なくとも彼らが死ぬまでは続く。でも、彼らの子ども世代はもう店を継ぐことはない。彼らがジジババになった時に、ここはもうなくなっている。

 永遠に続くと思われていた日々は、実はもう少しの時間しかない。それでも彼らは昨日と同じ明日を生きる。そんな彼らが愛しい。

 久々の舞台復帰となる大竹野正典さんがとてもいい味を見せている。普段のまんまの彼の持つキャラクターが彼の事を熟知したはるかさんの手で舞台上に再現(というか、そのままなのだが)されていく。彼の若妻役のもとみかんがむ、坂田友紀子さんも久々の舞台出演で、彼女の持つ「のっぺりした自然さ」がよく生かされている。(彼女の表情の乏しさが、なぜかとても魅力的なのだ)この商店街の世界に入って来て、自分より年上の人たちの中に巻き込まれて、でも、それをきちんと受け止めて無理なくここに存在している。そんな姿がしっかり伝わってくる。いつもながら役者たちのアンサンブルがとてもいいから見ていて気持ちがいい。

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