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映画・演劇のレビュー

空の驛舎<fragment>「スピードに真夜中あげる」

2008-03-25 22:32:10 | 演劇
 当然のように公演タイトルは『真夜中にスピードをあげる』だと思っていた。だが、ある時気付く。ありえへん、と思う。このやけくそのようなタイトルのもとで描かれるこの芝居は、「真夜中」と「スピード」が逆転したところで生じる。このタイトルには確かな作者のねらいがあるのだが、それに気付かないまま、過ごす人もいるだろう。それもまたよしとする。それにしても、日本語としてこれはありえない。意味をなさない。

 混乱した意識の中で見た風景。今までの人生の断片が順不同に彼のもとにやって来る。記憶は混濁してる。その理由が彼自身にはわからない。弟のこと。母の事。先生のことや、その他、いくつもの風景。脈絡もなく、立ち現れる。

 車の中に、たくさんの人たちを乗せている。見知らぬ人たち。自分は車を運転しているらしい。真夜中にスピードをあげる。加速していく記憶のあれこれ。自己を起こして死んでいく直前のイリュージョン。

 ラスト10分はちょっとした衝撃である。敢えてああいう見せ方をする。これが芝居だ。作、演出の中村賢司さんはただの心地よい芝居を作らない。居心地の悪いもの、危険なものを提示する。今演劇をすることの意味を唐突に問いかける。けしてあれがよいとは思わない。中村さん自身もあれでよかったとは思っていないだろう。だが、今性急かもしれないが言葉を信じた自分の作業をもう一度問い直したかった。その気持ちはわかる。バランスを崩しても構わない。それだけの覚悟ならある。とても勇気のある芝居であった。

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