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映画・演劇のレビュー

『ベトナムの風に吹かれて』

2017-11-23 22:46:37 | 映画

 

久々の大森一樹監督作品。70年代の終わり、『オレンジロード急行』で颯爽とメジャーデビューを飾り、時代の寵児になった。80年の『ヒポクラテスたち』は僕の生涯映画ベストテンに入れてもいいような大傑作だ。それ以後も80年代、たくさんの作品を手掛けた。吉川晃司のデビュー作でもある『すかんぴんウォーク』に始まる3部作や、斉藤由貴の3部作(特に『トットチャンネル』)が素晴らしかった。だが、90年代に入って減速する。勝負作のはずだった全編フィリピンロケの『エマージェンシー・コール』くらいからはまるで精彩を欠く。

 

大阪芸大の教授になり学部長かなんかにもなり、先生家業が忙しくなったからかもしれないけど、今世紀に入ってからは作品もあまりなく、つまらない。これはそんな彼の久々の新作なのだが、あまり興味がなく、今回たまたまDVDで見た。劇場まで見に行く気にはならなかったが、でも、やはり気にはなるからだ。でも、思いがけない拾いものだった。松坂慶子主演というのも時代遅れだが、それだけに興味深い。今、彼女の世代を主人公にした映画は作られない。敢えてそこに挑めたのはこの企画の特異性ゆえだろう。

 

日本語教師としてハノイで暮らす彼女のもとに81歳の母親がやってくる。彼女自身が、認知症の母親(『Shall We ダンス?』の草村礼子だ!)を引き取ったのだ。日本を離れ、別天地で暮らすことになった母親が周囲の人たちの助けで、少しだけ回復し、元気になっていく。そんな甘い話なのだが、ベトナムの善意の人たちに説得力があるから気持ちよく見ることが出来る。

 

もちろん、甘いだけではない。怪我により歩けなくなることで、認知症が進行したり、というお決まりの展開もちゃんと描かれる。だが、暗くなる寸前でなんとかなる。何とかしなくては生きていけないからだ。

 

挫折した奥田瑛二の元恋人がやってきて、彼を支えることで、自分自身も元気になるとか、ゲストでなんと吉川晃司まで登場したり、大森一樹にとっても再生に向けての第一歩となる作品になった。

 

60代の青春映画というコンセプトに介護の問題も絡ませて、第2の人生をいかに充実させるかが描かれていく。60年代学生運動の時代に青春を過ごした世代が、今、何をすべきなのかを、重くならないコメディタッチの映画として提示した。もちろん、傑作というわけではない。ただのプログラムピクチャー(そんな言葉はもう死語だが)である。でも、そんな軽やかさがこの映画の身上だ。この映画から大森一樹も復活できたなら、うれしい。

 


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