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映画・演劇のレビュー

関口尚『ナツイロ』

2013-09-10 22:15:27 | その他
 集英社文庫のオリジナル作品。2012年の夏に出版されて今年の「ナチイチ」の1冊にも選ばれている。今回うちの学校でナチイチの本を大量に購入したから、その中から、まだ読んでないし、少し興味深い作品をピックアップして読んでいる。これで5冊目。普段は文庫は読まないのだが、久しぶりに文庫で読むと、楽。かばんが重くならないから持ち運ぶが便利だし。でも、新作を中心にして読書しているからなかなかそうはうまくいかない。

 こういう軽い青春小説は、嫌いではない。だが、ほんの少し作り方を間違えると、読んでいられない惨いものになる。関口尚なので大丈夫だろうと、思い読み始めたが、最初の部分で、少し躓く。オレンジ頭の女の子との出会い、彼女と過ごす夏の日、という定番の設定、ミュージシャンを目指す彼女の無軌道な生き方、でも、なぜか心惹かれていく主人公。この2人のラブストーリーだ。だが、いい雰囲気になると、また、彼女が暴走して彼はがっかりする、という展開。これもよくあるパターン。全体的にお話がよく出来たTVドラマのような感じで、少し退屈。でも、最後まで読んで、安易なラブストーリーにはせずに一貫性があって悪くはなかった。

 主人公の青年の視点から統一されてあるのがいい。彼女の考えが彼女の口で語られると、きっとつまらなくなっただろう。あくまでも彼女はいいかげんで、信用しようとしてもいつも裏切るのも峰不二子みたいな女でいい。でも、腹が立つけど、憎めない。そんな「かわいい」女でよい。

 彼は彼女と出会ったことで、ほんの少し変わっていく。主体性がない男から、自己主張の出来る男へ。そんなささやかな変化が愛おしい。それでいい。これは先日見た『江ノ島プリズム』の主人公の立ち位置と同じだ。どちらも、小説や映画としては甘すぎる語り口なのだが、ギリギリのところで、ちゃんと踏みとどまっているから、面白い作品だと言える。かなり微妙なラインなのだが、大丈夫。

 愛媛のみかん山を舞台にして、都会と田舎の対比、そしてそのふたつの場所で、彼らがどうして生きていくことになるのかを、音楽を通した交流を中心に据えて描いていく。惚れたはれたは二の次。さらには、成功するかどうかも、ここでは問題ではないけど、小説だから、(フィクションだから)、そこは、ほんの少し夢を見せる。そういう甘さも悪くはない。


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