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映画・演劇のレビュー

大阪新撰組『蜃気楼に君を思ふ』

2007-01-22 21:13:23 | 演劇
 万全の準備で臨んだはずなのに、ほんの少しボタンを掛け違い、気がつくとんでもないことになってしまうことがある。最初に生じた違和感は、埋めきれないままラストまで行ってしまうのだ。いつもより幾分シリアスな入り口を見せた新撰組の新作は、まさにそんなパターンの失敗を見事なまでに見せてしまう。

 企画も発想も面白いと思うし丁寧すぎるくらいに丁寧に台本も作られたのだろうと思わせる。企画書にあるストーリーが面白く期待していた。なのに改稿を重ねていく段階で、もともとあったイメージが韜晦されてしまい、観客の側に伝わらないものになってしまったのではないか。

 印刷会社を舞台にして、そこを乗っ取ろうとする男と、彼に立ち向かう印刷会社の面々、という話にまずついていけなかった。なぜ男はこの潰れかかっつた会社を乗っ取らなくてはならないのか、この芝居では分からない。環境保護運動をしていた2人のうち1人が挫折し、もう1人は家族の援助のもとに今も続けている、という設定も、もう少し説明がなくては、彼らが何を求め、何に躓いたのか分からないからその基本設定すら流してしまいそうになる。彼らにあった、かっての出来事が今のこの印刷会社に起きていることとオーバーラップしていくという部分も、ますます分かりずらくなる。もともとあった設定が台本をカットしていく段階で削られすぎてよく分からなくなってしまったのではないかと、思わせるくらいに作品自体の構造が見えずらい。

 大きな何かに飲み込まれ、自分たちの大切なものを見失っていく、という話をさびれた印刷工場に象徴させてどう見せたかったのか。さらには、実在の富山県魚津という町を舞台にして描くことによって見せたかったものは何だったのか。ストーリーだけでなく、テーマも含めて消化不良のため、すべてが謎のまま終わってしまう。

 それにしても、なぜ最初のシーンでもっとしっかり主人公2人の関係を描けなかったのか。なぜ彼らが挫折するに到ったのかを描かなくては、その後の、日常に埋もれて暮らす主人公のドラマにすんなり入っていけない。

 社長が300万もの大金を落としてしまい彼が働く零細印刷会社が動かなくなっていくという冗談のような導入はシリアスなオープニングとの落差ゆえ、うまく機能したら面白いものになったかもしれない。しかし、ここでこの芝居はまず躓いてしまう。

 あとは先に書いたように作り手の意図と、出来上がったものが微妙にずれていき、その溝は開いていくばかりである。説明不足がたたり、芝居全体の構造が緩くなり、リアリティーにもインパクトにも欠ける展開になる。ところどころで笑わせようとしたシーンが全て不発で、さらには本筋の足を引っ張っていくことにもなる。締めるところでなぜか手綱が緩んでしまい、バランスを欠くこと著しく、結局それがラストまで続いてしまう。どうしてこんな事になったのか、よく分からない。

 ホタルという女性と2人の物語が完全に全体から遊離してしまったのも致命的である。本来なら、ヒロインとして象徴的に描かれるはずの彼女がとってつけたように見えるのはいただけない。これでは、演じるきたまことさんが可哀想である。

 

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