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映画・演劇のレビュー

妄想プロデュース『農業少女』

2013-02-10 22:10:19 | 演劇
 野田秀樹の傑作戯曲を池川辰哉が演出する。今なぜ彼が既成戯曲に挑戦するのか。久々の公演となった本作は再出発するためのリハビリ興行とでも、いうべきものだろう。スタジオガリバーの小空間で、基本的には一切舞台装置を用意せず、その細長い空間だけを、生かして、この作品を忠実に演じる。本公演ではなく、実験公演と銘打つのも、今回の企画が従来の妄想プロヂュースの流れからは異色なものだからだろう。

 僕が見たのは、「農」チームのヴァージョン。今回は2パターンで、2組が演じる。少人数の芝居で、上演時間も短い。出来るだけシンプルな芝居を心がける。役者たちの力量を問う、とか、そんなのではない。あくまでも自分の事情だ。池川くんは、これからどんな芝居を作ろうとするのか。これはその試金石となる。自分の妄想に拘ってきた彼が、野田秀樹の妄想を通して、「世界」というものの成り立ちを再検証する。田舎と東京。農業を棄てて、東京の虚業を目指す。15歳の少女が家出して、あこがれの東京へ出てきて、その虚飾の世界に染まる、というとても陳腐なお話なのだが、そこに野田秀樹はさまざまな要素を放り込んだ。その過剰な世界を、池川くんは、どんどん殺ぎ落として、とてもシンプルなドラマにまとめる。

 『農業少女』って、こんな単純な話だったっけ、と首をかしげたくなるほどだ。だが、そんな単純さのなかに、今まで過剰なドラマを紡ぎ続けてきた池川くんの目指す方向性が見えてくる。今の彼がこの戯曲に見たものは、こういう単純なドラマであり、そこをざっくり見せることで、彼自身が吹っ切れたのではないか。自分のオリジナルではなく、今、自分が気になる他人の脚本を、自分で演出することで、新しい方向性が見えてきたのだ。

 アレンジしたのではなく、自分の今の気分をそこに乗せることで、わからなかった今の自分が見えてきたのなら、うれしい。僕はそんな風にしてこの芝居を見た。ここで彼が発見したものの正体は、この後の彼らの新作できちんと提示されることだろう。新生妄想プロデュースがまもなく、幕を開ける。



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