習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

演劇集団よろずや『オー・マイ・リョーマ』

2018-06-02 00:34:45 | 演劇

 

10年ぶりの再演。久しぶりに見て、やっぱりとても面白かった。やはりこれは寺田さんの代表作だ。でも、これは渾身の力作だとか、超大作だとか言うタイプの作品ではない。とても軽妙なタッチのコメディなのだ。だいたい、まず坂本龍馬を主人公にしたコメディというのもめずらしい。でも、主人公のはずのリョーマ(ここからはもうこういう表記にする)はほとんど登場しない。彼の周囲にいる仲間たちのドタバタ騒動が描かれるばかりなのだ。常にフットワークの軽いリョーマに振り回される取り巻き連中の姿が描かれる。

 

その日も朝から行方不明になったリョーマを探しての一喜一憂。描かれるのは、ほんの数時間の出来事。芝居が終わるところにまできても、まだ、その日のお昼にもなってはいない。

 

長崎を舞台にして、イロハ丸事件を描くということなのだが、史実をどうこうしようというのではない。ある日のリョーマのスケッチでしかない。この日から半年後、彼は死ぬ。いや、それ以前の寺田屋で死んでいてもおかしくはなかった。いつでも、死ぬ覚悟はある。だから毎日をおもしろおかしく、全力で生きよう、生き抜こうとしたのだ。そんな彼の生き様がこの「ある日のスケッチ」からはしっかりと伝わってくる。最初に敢えて「コメディ」と書いたが実はそうではないことは明白だろう。この日が、なんでもない「ある日」でもないことも明らかだろう。そんなことを必死に描くのではなく、脱力系のリョーマの姿を通して描くのだ。自作、自演の寺田夢酔がいい。この軽やかさがこの作品の魅力なのだ。10年経っても20年経っても寺田さんのリョーマは変わらない。朝っぱらからみんなに心配をかけてもケロッとしている。そんないたずらっ子のような、とびっきりの笑顔がいい。もう仕方がないなぁ、というしかない。もちろんただのトラブルメイカーではないことはみんなも知っている。だから余計に心配なのだ。この国の命運が彼にかかっている。でも、本人はそんな気負いもなく、飄々としている。この男の軽やかさこそがこの芝居のテーマだ。だからこれはただの史伝なんかではない。

 

美術、衣装、小道具のひとつひとつに至るまで慎重な目配りが成されている。丁寧な芝居作りが功を奏する。そんな前提があってこそ、成立する芝居なのだ。そこから生まれるものを見つめて欲しい。90分のドタバタ騒動を見終えて、なんだかとても元気にさせられる。これはそんな芝居なのである。

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« フラワー劇場『ISLAND』 | トップ | 猟奇的ピンク『(Let's)Take... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。