習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『トルソ』

2011-06-15 21:38:02 | 映画
34,5歳の女性を主人公にする。彼女はもう若くはない。しかも毎日に疲れている。仕事に情熱を傾けるでもないし、恋をするでもない。一人暮らしの生活は快適なのかもしれないが、なんだか寂しい。妹が時々来る。それすら自分の生活を掻き乱す気がして、好きではない。そんな毎日である。じゃ、なんのために生きているのだろうか。生き甲斐のようなものもない。ただ、時を過ごしているだけ、に見える。

 この映画はそんな彼女の日常をスケッチしたものだ。淡々としたタッチがうら寂しい雰囲気を助長する。主人公を演じた渡辺真起子の地味な顔がこの映画のすべてを象徴する。ここまで客観的に彼女の日常をスケッチしていき、そこからどこに行きつくのか。何もない映画なのに、目が離せない。

彼女の唯一の趣味は、トルソを恋人代わりにして一緒に過ごす時間だ。それは誰にも言えない孤独な女の不毛な営みなのかもしれない。だが、彼女はそんな生活に満足している。トルソは空気を入れてふくらませるタイプのもので、その形状はなんだか淡泊過ぎて、まるでいやらしくはない。これは淋しい女を慰めるもの、ではない。遊具でも、ぬいぐるみのようなものでもない。ただのトルソだ。だから、それ以上でも以下でもない。
 
 監督・撮影・脚本は山崎 裕。これが初めての監督作品らしい。彼はなんと70歳になるベテラン撮影監督だ。是枝監督の映画の撮影を担当している。脚本は佐藤有記が協力した。女性の視点も必要だからだろう。でも、映画は監督のものだ。彼がこの圧倒的な女性映画を作ったのだ。しかもこんなにもリアルに。この観察力はどこから生じたのだろうか。なんだか不思議だ。だいたいこんなにも、地味な映画が作られるという事実も不思議だ。

 なんだかつらい映画だった。決して彼女を不幸だなんて、思わない。だが、これが幸福とはとても思えない。だが、人の生き様は、簡単に不幸だとか、幸福だとか、割り切って言えるものではない。最後まで見終えて茫漠とした気分になる。お薦めはしない。だが、これを見届けることは無駄な行為ではない。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 本多孝好『at Home』 | トップ | ステージタイガー『リング・... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。