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映画・演劇のレビュー

『1950 鋼の第7中隊』

2022-10-02 12:30:14 | 映画

チェン・カイコー監督の久々の新作だ。映画館でチラシを見て、驚いた。こんな映画を彼が手掛けるのか、という衝撃だ。しかもツイ・ハーク、ダンテ・ラムと3人の共同監督作品とある。役割分担はドラマ部分がチェン・カイコーで、アクションシーンがツイ・ハーク、スペクタクル・シーンのダンテ・ラムというような感じか。それにしても問題はその内容である。明らかに国策映画臭がプンプンする。中国映画界が総力を結集した映画、ではなく中国政府肝入り映画。そんな作品をなぜチェン・カイコーが手掛けることになったのか。『空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎』を見た時も驚いたが、今回はその比ではない。他の2人は香港でアクション映画を手掛けてきた監督だからわかるけど、チェン・カイコーはそうじゃない。彼のデビュー作『黄色い大地』を初めて見た時の感動は今も忘れない。そして『大閲兵』。あの映画史に残る素晴らしい映画を作った彼がこんな映画を作る日が来るなんて、想像もしなかった。僕は見てないが『愛しの母国』という中華人民共和国建国70年記念映画の総監督もしているようだから、その流れから本作があるのだろうが、彼は一体どうなってしまったのか。恐ろしい。こんなプロパガンダ映画のお先棒を担ぐ御用監督に成り下がる。チャン・イーモウよりも酷い。

朝鮮戦争を背景にして、アメリカと中国の代理戦争を描く。驕り高ぶる悪のアメリカを正義の中国が正す。自国民の安寧を守るため命を懸けて戦う人民志願軍の兵士たち。国のために自分の息子の命を擲つ毛沢東。圧倒的な軍事力で攻めるマッカーサー。「製作費270億円、エキストラ7万人。」とい途方もないスケールで国家の威信をかけて作られたこの戦争スペクタクル巨編は見ていてただただ虚しい。こんな映画を作らされているのかと唖然とする。凄まじい迫力の戦争アクション映画だ。それは認める。国内で大ヒットしたのも頷けるが、こんな映画に感動する国民は悲しい。

冒頭の帰郷の描写を見ながら70年代の後半毎年開催されていた「中国映画祭」で見た古臭い映画かと思わされた。まるで予定調和のストーリーを御大層に感動的に作る時代錯誤の映画だ。(だが、その数年後の「中国映画祭」で見たのが過去の中国映画から一線を画す斬新でリアルな映画『黄色い大地』だったのだが)なんだか50年前に戻ったような気分。映画は舟の上で暮らす貧しい人たちの描写から始まる。そこから凄まじい迫力で描く戦場シーンへと一気だ。(最新技術と物量作戦、人海戦術を駆使して見せる)その落差にも驚く。2時間45分の映画は圧倒的なスケールで破壊の限りを尽くすと同時にこの唖然とするドラマを見せる。無残だ。なんと年末にはこの映画の続編も公開されるらしい。もちろん、僕はもう見ないけど。

 


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