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映画・演劇のレビュー

『愛到底』

2011-07-24 20:06:40 | 映画
4話からなるオムニバスである。2009年3月に台湾で公開されヒットした映画らしい。日本では未公開。昨年台湾でDVDを購入してきて、そのまま今日まで見ずに置いたままにしていた。本も映画もせっかく買ったのにそのまま、ということがよくある。どうしても、まず取り急ぐものから優先させてしまうからだ。しかも、毎日の生活に余裕がない。でも、今日ほんのちょっと、時間が出来たから、こんなふうにようやく見ることが出来てよかった。とても疲れていたから、何もしたくない。でも、このまま寝るのはなんだかもったいない。そんな気分に、この軽そうな映画がぴったりだった。

 ここに描かれる20分から25分くらいの短編は、方向性はまるで違うものばかりだけど、いずれもタイトル通りのラブストーリーだ。4人の監督のそれぞれの持ち味がよく出ている。特に最初のエピソードがすばらしい。九把刀監督作品。

 五年前に死んだ息子から、母親のもとに電話が掛かってくるというシーンから始まる。その後、すぐ、主人公である彼と彼女が、自分たちがつき合い出して5年目を祝うシーンが続く。映画はバランスを崩す程にこのシーンをとても丁寧に描く。プレゼントの交換。プレゼントのライトセイバーで2人が戦うシーンを延々と追いかける。部屋の中から、テラスへと、どんどん場所を移しながらじゃれ合う無邪気な2人の微笑ましいシーンだ。この後、一気にラストまでは、怒濤の展開だ。彼の発病。入院。死に至るという悲恋が描かれる。よくあるドラマ(ドラマに置いては、という意味だが)だが、2人の出会いから(エレベータに閉じ込められる)現在までを回想で挟みながらテンポよく描く。そして、ラストの彼女が延々と泣くシーンへと到る。この短い映画の中で、彼らのすべてを見せられたとき、まるで長編を見た気分にさせられた。先に書いた2つの要となる長いシーンが、この映画を成功に導いたのだ。2つの5年という歳月をもう一つの要にしたのもいい。息子の不在から5年の母親の哀しみ。彼との出会いから5年の幸福と、その後の彼の死に至る傷み。避けがたい不幸と向き合いながら生きた時間が見事に描かれる。悲しいときにずっと泣く。ただそれだけのことが、こんなにも胸に沁みる。

2話目は、ある映画監督がPVの撮影のために行ったロケ地で、記憶を失った昔の恋人と再会する話。これも雰囲気がよく出ていて悪くはない。3話目は重いタッチの作品、4話目のコメディータッチと変化の富んだ連作で、字幕がなくても、93分充分に楽しめた。


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