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映画・演劇のレビュー

堂場瞬一『チーム』

2011-04-09 09:34:23 | その他
 このブログでは個人的な話は一切書かない方針だが、この小説について書く上で、今、どうしても書いておきたいことがある。高校で、とあるクラブの顧問をしているのだが、昨年六月の3年生が引退してから9ヶ月、1,2年によって作られてきた新チームがとうとう最後の時を迎える。3年が強かったから、なかなか結果を出させなかったけど、みんながそれぞれ努力して、何度も何度も負け続けようやくここまできた。彼女たちは、そのほとんどが中学の頃から力を発揮していたわけではない。目立たなかった存在だ。だが、この高校に来て、周囲の仲間や、先輩たちの力で、少しずつ成長してきて、ようやく今のレベルまで到達した。

 基本は個人競技だけれど、チームとしての団結を何よりも大事にして、みんなで成長することを一番に考えた。それが僕の方針だ。チームの1番手も初心者からスタートしてまだ一番力のないメンバーも同じように扱い、同じ時間コートに入れるようにする、というのが僕のやり方だ。その結果、1年が経つと力が平均化して、誰もが同じ力を持つようになる。本当なら、スペシャリストを養成し、レギュラー中心にして、メニューを組むと、もっと強いチームになるのだが、それはしない。僕らはプロの選手を目指しているのではないからだ。しかし、負けたくはないから、そのジレンマをみんなの頑張りで乗り越えていく。

 公立高校だし、学校はどのクラブも盛んで、体育館を使える時間は限られている。しかもお金もないから、十分な練習もできない。そんな中で、少しずつやれる範囲で力をつけていき、今日までやってきた。今、この9ヶ月の総決算の今シーズン最後の大会に挑んでいる。これが最後だ。これまでのすべてがここに集約される。トーナメントはひとつ負けたならそこですべてが終わる。団体戦はオーダーの組み方と、コンディションの調整が勝敗を決する。あまり強くないチームで勝つには、今持てる力を最大限に引き出すことが大切だ。だが、状況をきちんと判断してエントリーを決めると、後は選手に委ねるしかない。ちょうどこの大会中にこの小説を読んでいた。この監督の気持ちがなんだかよくわかった。

 箱根駅伝への出場を逃したチームの寄せ集めメンバー(と言っても、各大学の選りすぐりだが)が、たった2日のために作られる学連選抜に選出され、出場する。これは期間限定のチームを率いて、彼らをひとつのまとめ箱根で優勝をめざす、というとんでもない話である。

 正直言うとまるで期待せずに読み始めた。箱根駅伝を舞台にした小説には、もう三浦しをんの『風が強く吹いている』という傑作があるのだから、同じ題材を扱うのなら、あれを越えなくては意味がない。でも、あれ以上の感動なんて、ないだろう、と思いつつ、まぁ、読んでみようか、というくらいの気持ちで読み始めたのだが、とても上手く出来ていて、ラストでは涙が止まらなくなる。やられたなぁ、と思う。どうして、このパターンにこんなにも弱いのか、と思う。でも、仕方ない。もともとスポーツものに弱い。スポーツのあの限りなく無駄なところに、やれれてしまう。9区を走る山城のところから、もう無理だ。アンカーの浦に襷が渡されるクライマックスからラスト50ページは怒濤の展開だ。とんでもない話なのに、ここにはリアリティーがある。だから、感動する。

 僕たちのチームも今日、最終日の準決勝、決勝に挑む。結果がどうなるのか、今はわからない。だけど、この1日で、9ヶ月の長い長い戦いは終わる。悔いのないようにしたい。そして、明日からは新1年生を迎えて、また、新しい1年が始まることになる。どんなメンバーが入ってくるのか、全くわからない。だが、いつもベストを尽くす。みんなが感動できるドラマを作る。そのために毎日地道な努力を続ける。それだけのことだ。単調な練習の積み重ねの日々から信じられないような奇跡が起こる瞬間を夢見る。

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