1969年、台湾の小さな島。そこで繰り広げられる男と女たちのドラマ。台中最前線の戦場で、彼らが何を感じ、何を思うのか。ノスタルジックな美しい映像で綴られる懐かしい風景が、80年代に見た台湾映画の数々を想起させる。台湾ニューウエーヴと呼ばれた素晴らしい作品群の流れを汲む。その担い手だったホウ・シャオシェン監督が協力していることも影響しているのかもしれない。初期の彼の映画の流れを汲んでいる。『恋恋風塵』の姉妹編のような趣すらある。あるいは『悲情城市』を思わせる。
この映画が描くものは、歴史の恥部を暴くとか「タブーに挑む」というような感じのものではない。この悲しいドラマは、こんな衝撃的なお話であるにも関わらず、それがなんだかどこにでもある人の営みに見える。たまたま、彼が配属されたのが831部隊だっただけ。そして、そこが軍の設営した娼館で、従軍しているのは、彼らだけではなく、もちろん女たちも。彼らは同じようにこの戦場にいたのだった。
丁寧にあの時代を再現して、そこで生きた人たちの姿を描いていく。ここに描かれる彼らひとりひとりが愛おしい。それぞれがそれぞれの事情を抱えて、ここで生きている。生々しいセックスを描くのではないし、悲劇性を強調するわけでもない。静かに愛おしむように彼らの姿を描いていく。『モンガに散る』のニウ・チェンザー監督は、あの映画とはまるで違う題材なのに、その底に流れるものは同じ。とても彼らしい映画だ、と思った。こういう映画が見たい、と思う。