熊切和嘉監督がこういう青春映画を撮る。これは一応高校生の部活の話でもある。このパッケージングは意外だった。
稽古中、木刀で父親の頭を叩き、廃人にしてしまった。その罪の仮借を抱き続け、酒に溺れる男が、剣道を始めたばかりの高校生を通して、再起していくまでが描かれる一応熱血青春活劇。わかりやすい話なのだが、まるで、そのわかりやすさを裏切るようなドラマ運びをする。綾野剛はずっと汚いままで、酒浸り。村上虹郎は、初心者から剣道を始める高校生というある種のパターンにはまるで括れない出で立ちで、いろんなことがわかりやすさからはほど遠い。
こんなにも爽やか青春映画から遙か彼方にあるのに、なぜかとても爽やかな感動を呼ぶ。それは彼ら2人がただストレートに自分しか見ていないからだ。こんなにも視野の狭い人間はいないのではないか。それくらい近視眼的なのだ。見ていて何がしたいのやら理解に苦しむ。だが、スクリーンから目が離せない。虹郎なんて恋愛もしない。この手の青春映画には必ず女の子も出てくるものなのに、まるでない。(前田敦子は一瞬出るけど、彼女は綾野剛の恋人役で、ただの酒飲みで、ほとんどストーリーには絡まない)
鎌倉を舞台にして、明るく楽しい青春映画にいくらでも出来る素材をそうはさせないで、不思議な作品にした。(まぁ、原作が藤沢周なので)この不思議さは、戦うことのみに終始して、それ以外に何も考えないところにある。そうすることで、世界の先まで突き抜けていける。2時間5分があっという間の出来事だった。