SSTプロデュース『彼方のソナタ』
3人が丁々発止のやりとりをするのではなく、なんとなくお互いがビクビクしている。3人の間に微妙な距離があり、それがラストまで続くのがもどかしい。これは男3人によるアンサンブルであり、彼らの掛け合いの面白さで見せていく芝居なのだが、これではあまり弾まない。だが、それはこの芝居の拙さではなく、演出の意図だ。
当麻さんは敢えて流れをせき止めるような演出をする。彼らのやりとりにギクシャクしたものを求めた。だからSSTプロデュースの前作『寿歌』の続編のような作品になっている。キャストも同じだし、この世界の終わりのような光景という設定も似ている。(『寿歌』と違い、こちらは真冬の誰も居ない山荘なのだけど)大竹野作品であり、『黄昏ワルツ』『三人虜』に続く「世界から取り残された男3人」による三部作最終章であるにもかかわらず、前2作ではなく、世界観は『寿歌』の続編で、しかも大竹野作品としては『山の声』に似ている。
雪に閉ざされた山荘で食べるものもなく、白菜だけを食べ続け、冬を越そうとする3人の男たち。後半、ナガスが狂っていく過程が怖い。(『シャイニング』みたいだ)ナガスは笑顔(不気味!)で自然に白菜とコミュニケーションをとっていくようになる。ナガスを演じる魔人ハンターミツルギが凄くいい。彼の無邪気な笑顔が怖い。ゴンドウとスナメリはそんな彼を見守るしかない。冒頭からずっと彼らの周りにいた、すでに死んでいるナガスの弟が舞台上に登場して、ナガスと言葉を交わす静かなシーンが美しい。
誰もいない場所でゆっくりと狂っていく姿を静かにみつめる。全体は抑えたタッチで起伏もなく淡々とした芝居として提示される。単純すぎてメリハリに欠くのは、承知の上だ。この台本を通して、ここに終末の風景を描く。そんな心象風景として完結する。その結果、大竹野作品としては異色の肌触りの作品になっている。