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映画・演劇のレビュー

テラヤマ博(大塚雅史)『星の王子さま』

2008-03-02 11:05:17 | 演劇
 この芝居の完成度の低さは尋常ではない。もうほとんど学芸会の域である。しかも、それがあの大塚雅史さんの演出のによるものであるという事実に驚きを禁じえない。

 ライティングや音響といったスタッフワークである程度形になる芝居を作ることは、彼の技術をもってすれば至極簡単なことに相違ない。にもかかわらず、そういうところに逃げたりしなかった。稚拙は覚悟の上で、見せていく。

 以前の彼なら、こんな恐ろしいことはしたり、しなかっただろう。なのに、今は平気でそれができる。(もちろん「平気で」なんて言うのは言葉の綾である。本人はドキドキを通り越して、開き直った状態だったことは、終演後のアフタートークでもはっきり話されていたくらいだ。)

 05年にランニングシアター・ダッシュを解散し、その後さまざまなことに挑戦されている中でも、今回の企画は白眉であろう。オーデションで選ばれた役者たちと手探りで寺山修司に取り組み、、この単純なのに、わかりにくい作品を、敢えて明確な方向付けもなされないまま、作り上げていこうとする。空中分解することも覚悟の上、それでも玉砕必至で芝居を作る。このとても恐ろしい冒険にチャレンジし、今日(2月23日)から、3月8日までのロングランに船出した。その勇気に拍手を贈りたい。

 寺山の『星の王子さま』は、夫を殺して、夫そのものになり変わる母とともに、男装のレズビアンたちの潜むホテルに迷い込んだ少女の旅を描く。本当のものがどこにもない嘘だらけの世界の中で茫然と佇む彼女の前に立ちはだかる自らを星の王子さまと言う老いたホテルの女主人。サン・テクジュペリのお話にある永遠の少年に憧れ、老残をさらす。少女は、恐怖と不思議の世界を彷徨い、本当のものなんて何もない世界の残酷と向き合うことになる。

 作り物だらけのキッチュな世界の中で、右往左往しながら手探りでこの芝居を作り上げようとする大塚さんとそのチームの迷走をぜひ目撃してもらいたい。この芝居はまだ、始まったばかりだ。今日も、明日も、まだまだ続く。


 以上、これも、2月23日。初日見た後書いたメモだ。あれから1週間がたつ。芝居は今日5日目を迎える。

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