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映画・演劇のレビュー

『リボルバー』

2009-01-18 22:11:01 | 映画
 こんなにも面白い映画が隠れていたなんて驚きだ。しかもリュック・ベッソン製作、ガイ・リッチー監督、ジェイソン・ステイサム主演映画である。正直言って誰もこれに期待なんかしなかった。タイトルだってこれである。ただのアクションでしょ、と思う。ノー・マークの映画が意外な出来で驚く、というのが一番楽しい。

 まぁ、本当はただのアクション映画だとは思わなかったが、ここまで良く出来ているとも思わなかった、というのが本音だ。『「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』『スナッチ』でブレイクしたがその後、泣かず飛ばずだったガイ・リッチーである。彼が初めてその本領を発揮した会心の傑作だと思う。あの2本でも先の読めない展開が特徴だっただ、それがさらに洗練され過激になっている。一瞬でも目を離したなら映画から振り落とされる。

 なのに、最初はこの映画を舐めていた。どうせたいした映画ではあるまい、なんて。(まぁ、そう思うなら最初から見るなよ、とも思うが) だが、すばらしくテンポがいいので、あれっ?と思ううちにどんどん話の中に引きずり込まれる。ぼんやりしてたらわからなくなる。だから、途中からは必死になった。本当なら最初から必死に見ておくべきだったのだ。ここまで良く出来た話だとは思いもしなかったから、なんとなく見てた。

 もし、これから見るのなら、心して見るように。集中してこの映画に仕掛けられた罠に嵌らないように。目を凝らせ。見逃すな! そして、仕掛けた罠を見抜け。そうすると、どこで見破れるのか。楽しみだ。これはそんなタイプの映画だ。デビット・リンチの映画や、内田けんじの映画をイメージしてもらえたらよい。まぁ、それではよくわからないだろうから、自分の目で確めて欲しい。(これは昨年の夏に公開されている。世の中にはほんとうに意外な映画が隠されている。)

 途中からこの話の歪さがあからさまになる。そこに気付いたときには実は遅い。だが、あまり構えてみたら肩透かしを食らうかもしれない。正直言って話自体はたいしたことはない。僕が驚いたのは、こんな展開を予期だにしなかったからだ。何度も言うがベッソン製作の映画を舐めてただけだ。

 映画の終盤レイ・リオッタを殺しに行くシーンでネタばれする。その後殺せないままエレベーターに乗り内面の声が渦巻くシーンでそういうことだったのか、と確信するのだが、まだここから20分以上ある。それまで、散々弄ばれてきたから、これで終わるわけがない、と猜疑心に駆られる。まだまだ仕掛けられているはすだ。だから騙されない、と。

   (ここから完全にネタばれします。)

 オチが独房の中で見た夢というのではあまりに安直過ぎる。それだけではない、とも思うのだが、最後まで見た印象ではそう見えてしまう。エレベーターに対する恐怖という最初から一貫した謎はそれではっきりするのだが、なんだかすっきりしない。閉所恐怖症なんて簡単すぎる。

 だいたいこのラスト20分前でばれた後、そのネタを引っ張ったのはなぜか。もうひとつふたつどんでん返しがないのなら、ネタばれした瞬間に一気に終わらせるほうがよかったのではないか?だいたい夢オチは映画として最低である。要するにそれをやっちゃうとなんでもありになってしまうからだ。

 この映画は実に緻密に作られてある。単純な夢オチではない。複雑に絡み合った関係から、様々な謀略、抗争、騙しあい、それらが主人公のグリーン(ジェイソン・ステイサム)を追い込んでいく。彼のモノローグを多用した構成は、後で考えたなら、終盤の展開を予見させるのだが、怒濤の内面の声ラッシュが続くエレベーターのシーンから、さらには敵であるレイ・リオッタまでもが内面の声に襲われるのはやりすぎた。

 面白いし、驚いたのだが、もう少し何かが欲しい。終わってみればいつもの単純なリュック・ベッソン製作映画でした、ではしゃれにならない。

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