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映画・演劇のレビュー

坂口修一◎一人芝居『煙突 完全版』

2009-04-29 22:02:20 | 演劇
 坂口さんは1昨年から1年間をかけて、毎週火曜日(僕が仕事で遅くなる曜日だ! だから、結果的に僕は『火曜日のシュウイチ』を一度も見にいけなかったのだ。あの1年は坂口さんに会うのが辛かった。何度かは行こうと思えば行けた日もあったのに結局行けないままだったからだ。)に一人芝居を続けた。彼はその無謀とも見える試みを成し遂げる。月ごとに変わる演目は12人の作家とのコラボレーションでもある。そんな中から、今回淵野尚さんと組んだ作品を完全版として再演する。劇場も1-STからインディペンデントシアター2ndへと変更してバージョンアップした公演。途中にゲストとのトークショーをはさんで1時間50分、怒濤の1人芝居である。

 とても力のこもった作品だ。話自体は不条理とも言える内容で、ストレートには伝わりにくい。記憶を失くした代役専門だった男が、昭和史を背景にして生き抜いた姿が描かれていく。ひとつの思いが坂口さんの肉体を通して伝えられていくことになる。これはストーリーを伝えるのではなく、繋がっていくひとつの感情を描く芝居だ。作、演出の淵野さんが描きたかったのは、お話ではなく、突き詰めた想いが人をどう動かしていくのかを見つめることだ。ストーリー性を前面に出す芝居と違いこれはかなり難しい。

 そんな困難な作業を坂口さんは黙々とこなす。感情的なお芝居で、煙突というものも含めて、象徴的に処理させているから、理屈ではなく、感覚で受け止めるほうがいい。繰り返しになるがこれは演じ手にとってかなりな困難を伴う作業だ。独りよがりなものになりかねない。自分の思いが観客にどこまで伝わりえたのかが把握しにくい。だが坂口さんの背後には淵野さんがいる。彼が観客の視点になって見守ってくれるから、坂口さんは安心してこの主人公になりきれる。

 これは微妙なラインでの綱渡りのような作品だ。それだけにバックアップも大切だ。シンプルだけどきちんと考えられた舞台美術(柴田隆弘)がいい。2枚の障子と椅子だけなのに、それがこの空間をとても豊かなものとしている。ラストの映像(障子の白にくっきりと映される海と軍艦島)も効果的だ。観念の世界から現実の風景へと一瞬で飛翔していく様は感動的だ。

 

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