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映画・演劇のレビュー

劇団きづがわ『愛と死を抱きしめて』

2017-12-19 21:57:12 | 演劇

 

これはとても暖かい芝居だ。甘い話ではない。厳しい話だ。直接は描かないけど、明らかに福島の原発事故を描いている。3場からなるお話自体は、64年、69年、71年という昔の話だ。山崎貴監督の『3丁目の夕日』と同じ頃の福島の話なのだ。だが、ここにはあの心地よいノスタルジアはない。

 

いや、心地よさ、という意味ではこれは負けてない。ここに集う人たちの群像劇で、みんながみんなとても優しい。主人公の道代の恋物語が中心を担うのだが、彼女もまた、「みんな」のひとりで、誰が中心というわけではない。彼らのひとつひとつのドラマは愛おしい。大熊町の寒村を舞台にして、貧しいけど、幸せだった人々の営みが描かれる。道代の家族の話を中心にして最後は彼女の恋物語に収斂していく。葬式から始まり、結婚式で終わる。ささやかだけど、幸福な青春物語なのだ。

 

 

象徴的な出来事(A面では、東京五輪、アポロ月面着陸、大阪万博、B面では原発誘致、原発1号機試運転、福島発運転開始)、を背景にした3つの時間を通して、日本の高度成長期の背後で、福島でどんなことがあったのかが、描かれる。どこにでも居る普通の人たちの哀感がここには描かれるのだ。恋をして、大人になって、ケンカして別れて、でも、腐れ縁で、等々。みんながみんなそれぞれの置かれた状況の中で生きている。泣いたり笑ったりして。でも、そこに原発があり、やがて、2011311日が、そして「その翌日」がある。

 

原発がなかったなら、福島でなかったなら、なんでもないありふれたドラマになる。でも、ここは福島で原発がすぐそこにあった。

 

3場の間に挟まれる現在のドラマが、その都度、この暖かい話を現実に引き戻す。ラストの激しさも含めて、彼らの怒りを受け止めたい。老婆になった道代を林田彩が見事に演じたラストは胸に痛い。少女時代から老婆まで、彼女の人生をたどる2時間15分の旅の終止符としてあの無言のラストはこの作品の全てを集約する。

 


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