若手劇団の芝居を見る楽しみは、彼らが何を目指し、何を伝えようとしているのかを知ることにある。そういう目的意識が明確な芝居だったとき、それがたとえ拙かったとしても、満足できる。大切なことは、何が出来たか、ではなく、何を目指したか、にある。表現のレベルが想いには届かないもどかしさすら、そこでは作品の力になる。若さの特権だ。そして、そういう意味でもこの作品は見てよかった、と思える。
ピン芸人を目指して上京したが、夢破れて大阪に帰る男が主人公だ。『人生ドッキリ』というTVバラエティ番組が彼を取り上げ、そんな傷心の彼の人生そのものにドッキリを仕掛ける。彼一人が騙されて、みんながそれを見て笑う。
芝居全体がその番組、という構成。虚構の現実が彼には現実で、そういう2重構造を通して、現実とは何なのか、に迫れたなら面白かったのだが、そこまではいかない。騙されていたことを知った彼がどういう行動に出るのか。仕組まれた「現実」を目にして、自分の人生をバカにされた気になり、何を信じたならいいのかわからなくなる。そんな彼の想いがどこに向かっていくのか。お笑い番組は笑えたなら何をしてもいいのか、なんていう告発ではなく、仕組まれた虚構の現実を通して彼が本当の現実と向き合っていくというストーリーは興味深いし、お話自体の仕掛けとしても悪くない。
高校の頃から自閉的で人とちゃんと向き合えず生きてきた彼が、そこで初めて本当の現実と向き合うことになる。それが芸人としての矜持ではなく、恋愛であっても構わない。現実と思っていたモノが作られたモノだと知り、それでもその虚構の先に本当の現実を見いだそうとする。そんな主人公に共感できたらいい。