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映画・演劇のレビュー

いちびり一家 『怪談 隣の家』

2016-09-12 06:44:39 | 演劇

 

いちびり一家の「いちみり☆しあたぁ」。今回で5回目になるらしい。「大きくもなく、小さくもない、劇団いちびり一家の中くらいな公演」というキャッチフレーズがいい。彼ららしい。ムリしないし、手を抜かない。(そんなの当たり前!) 真面目な彼らは番外公演とか、実験公演とか、そういうネーミングはしない。(勘違いしないで欲しいけど、番外、とか実験とかいうのが不真面目だ、と言ってるわけではない)本公演では出来ないことをする。それを「中くらい」と呼ぶセンスが好きだ。

 

怪談と銘打たれるが、怖くはない。でも、このなんだか懐かしい寂しさは「怪談」と呼んでいい気がする。雨の後。空は暗く、時間の感覚がない。これは夕暮れの時間を思わせる。傘を指して、ひとりの女がやってくる。ふたりの女とすれ違う。彼女たちはいささか異常だ。ひとりが、犬の首輪をつけたもうひとりの女をひいているのである。狂っている。

 

なんだかよくわからない不思議な世界を旅するような1時間ほどのこの贅沢な芝居を見ながら、自由に想像力を展開させることの大事さを思う。

 

パジャマの3人の女たちは、それぞれ一人ひとり自分の夜と向き合っている。舞台中央には手前から奥に向かって1本のレールが敷かれてある。彼女たちはそこに横になる。やがて、電車はやってくる。

 

姉と妹。父と母。どこにでもあるような4人家族。みんなで映画を見に行く。なのに、人身事故のため、電車は止まっている。母は妹の手をひいて、家に戻ろうとする。そのまま行方不明になる。母を失った姉妹は(妹は置いて行かれた!)成長し、妹はもうすぐ結婚する。

 

母を失った姉妹はどんなふうに成長したのか。父親は彼女たちをどう育てたのか。だが、父親の存在は描かれない。姉が心の病を患っている。

 

こんなふうに芝居の断片を恣意的に並べたみた。ここには一貫したストーリーはない。今書いたストーリーも、見たもののほんの一部分だ。ここには理屈とか筋道とかがない。そんなことよりも瞬間的なイメージを重視する。雨はやんだのに、まだビニール傘を差したままの女は姉妹の母親なのか。姉はウソつきなのか。病気なのは妹なのか。不在に父の存在は? 母の名は貞子。家の庭にあった井戸の底に埋められている。だが、彼女たちの家には井戸なんかない。ずっと帰らない母を待ち続けた。ビニール傘の女は「私も貞子よ」と言う。いなくなった母。いるはずなのにその姿を見せない父。

 

こんな雨の日だった。どこでもない場所。いつともしれない時間。3人の女たち。在りし日の家族の面影。ゆるやかなイメージの連鎖。雨はもうやんだ。でも、雨なんかもう何日も前から降っていない。

 

こんなふうに書いていくと、これは確かに怪談だな、と気付く。とても芝居らしい芝居を見た、という気にさせられる。

 


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