習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『ペネロピ』

2009-03-02 23:09:11 | 映画
 若いスタッフが力を合わせてこのとても優しくて力強いファンタジー映画を作り上げた。監督は新鋭マーク・バランスキー。主演はクリスティナ・リッチー。思いがけない贈り物だ。

 この丁寧に作られた愛の寓話を堪能する。呪いをかけられて豚の鼻で生まれてきた娘は、外部の人たちの目に触れないように屋敷の中に閉じ込められて育った。年頃になった彼女をなんとか幸せにしようと、彼女の両親は彼女を妻に迎えてくれそうな男を捜すのだが、誰もが彼女の鼻を見た瞬間に「ばけもの」と言って逃げ出す。当然のことだろう。

 だから彼女はもう誰とも会いたくない。

 まぁ、いかにもなお話である。これを『アメリ』チックなメルヘンタッチで見せる。だから表面的にはヤワなおとぎ話に見える。しかし、映画はそんな単純なものではない。後半、屋敷を飛び出したところから映画は俄然面白くなる。お嬢様育ちの彼女が現実の世界に触れ、生きていこうとするところから始まる物語は無垢な子供が人間として成長する姿を象徴的に見せてくれる。そして、結末がまたすばらしい。とても気持ちがいい。

 彼女は自分から素顔を人前にさらす。そのことで、笑われ傷つくのではなく、反対にみんなから愛される。だが、映画はそこでは終わらない。女の幸せは結婚(誰かに心から愛されること)と信じる母親の勧めで、自分に言い寄る男(ほんとは彼女のことを嫌っている)と結婚することになる。さぁ、彼女は幸福になれるのか。まぁ、当然そんなわけはない。彼女はドタンバで結婚式場から逃げだす。

 結論はこうだ。『誰かに頼るのではなく自分を信じて、自分の意志で生きていくこと。』彼女がこの豚鼻である自分を素直に受け入れた時、彼女の魔法は解ける。そして、彼女は自分の思う生き方をして、自分の愛する人と結ばれる。めでたし、めでたし。

 障害を持った娘を過保護に育て、それを愛だと信じた母親と何も言えずそれを見守るだけの父親、自分に自信を持てないで、身を滅ぼす男とか、彼女を傷つけ自分の身の保身のみを考える男やら。そんな周囲の人たちの中で彼女は成長していく。

 この映画は生きるうえで一番大切なものは何なのかを優しく教えてくれる。

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