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映画・演劇のレビュー

『護られなかった者たちへ』

2021-10-04 15:53:35 | 映画

続々と新作が公開されていく絶好調の瀬々敬久監督最新作。重くて暗い映画だ。2時間14分の大作である。震災と真正面から向き合う力作である。こういう映画がメジャー大作として作られるのは素晴らしい。もちろんオールスターキャストによる社会派ミステリ映画で、堂々たる商業映画だ。低予算のマイナー映画ではない。だけど、観客におもねるただの娯楽映画では断じてない。志の高い力作であり、確かなメッセージを持つ。当然感動の押し売りにはならない。

瀬々監督は、さまざまなジャンルを自在に手掛けて、確実に自分のものにして仕上げていく。職人技と作家性を兼ね合わせての大躍進である。今や日本映画界のエースになりつつある。同世代の彼がこういうスタンスで自由に映画作りができる時代が来たのかと思うと、感慨深い。昔、瀬々監督のお宅に伺いインタビューさせてもらったことがあったが、あの時はこんな日が来るなんて夢にも思わなかった。

犯行の動機としては納得はできないことはないけど、無理がある。ミステリとしてはちょっとなぁ、とは思う。だけどこれは『砂の器』と同じパターンで、大事なところはそこではない。弱い者がどんどん苦しめられていく現実を直視し、虐げられた弱者の救済に何が必要なのかを考えさせることが目的だ。東日本大震災を背景にしているけど、もちろんそれだけに留まらない。ここの描かれる生活保護の需給の問題は、コロナ下での弱者の救済に通じる。さらには自然の脅威。その前では人間にできることなんてたかが知れているかもしれない。だけど、問題はその後、だ。

映画は震災から9年、猟奇的連続殺人事件の犯人を追って、ふたりの刑事が真相に迫る、というある種のパターンを踏む。冒頭の被災地の避難所を舞台にしたお話は先日公開された『岬のマヨイガ』とそっくりで驚く。謎の老婆と青年と少女が一緒に暮らすという基本設定が同じ。あれはファンタジーでこれはミステリという違いはあるけど、描こうとすることは同じだ。家族を失って身寄りのなくなった子供たちを老い先短い老人が助ける。国や自治体の救済措置から滑り落ちていくたくさんの人たち。特に老人と子供。そういうところはいつの時代であっても同じだ。描こうとするポイントは明確である。だからこの映画は信じられる。このジャンルの瀬々作品としては『64』と並ぶ力作である。

ラストシーンもそうだけど、随所に突っ込みどころはないわけではないのだ。だけど、メジャー映画としては、このくらいの甘さはなくては成立しないのだろう。だから僕は気にならない。


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