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映画・演劇のレビュー

エイチエムピー・シアターカンパニー『traveler』

2011-01-26 21:57:37 | 演劇
 前作もそうだったが、この作品を見ながら、笠井さんの取り組みが、ますます明確なものになっていくように感じた。見ていてなんだか胸が熱くなる。これはたった1時間ほどの実験的な作品である。それを繰り返してリメイクしていく過程で、作品はよりシンプルに観客である僕たちの胸に届くようになる。とんがったところが,まるくなってわかりやすくなった、というのではなく、笠井さんの描くべきことが明確になったことで、素直に作品が我々の胸に届くようになったのではないか。

 旅することのときめきと不安がとてもよく出ている。主人公の少年が町を歩き、列車に乗り、ホテルに泊まり、迷子になり、そして、いろんな人々と出会い、さすらう。13のシーンで構成されたそれぞれのエピソードは説明的なセリフもなく、抽象的で象徴的なイメージしか伝えないけど、それが、反対にいろんなことを想像させて、とても刺激的だ。見知らぬ土地を旅していくと、様々な不条理に出会う。それは理屈なんかではなく、とても感覚的なものだ。この芝居を見ているとそんな旅する気分が甦ってくる。そして、それがとてもしっくりとくる。見ながら何度もそうそうと頷いていた。

 旅をするとき見える世界は、現実の風景とは微妙に異なる。世界中のいろんな町は同じように見えて、すこしずつ違っている。この芝居を通して、この芝居に登場するトランク片手に旅する人々の姿が指し示すイメージの世界を、同じように僕たちも旅する。

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