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映画・演劇のレビュー

『ラスト・レシピ 麒麟の舌の記憶』

2017-11-15 19:30:35 | 映画

 

滝田洋二郎監督の久々の新作だ。あまり食指のそそられない題材だったけど、彼が撮るのなら、見たい、と思い劇場に行く。やはり、正解だった。なんとこれは大好きだった『天地明察』の流れを汲む作品なのである。何かに全力で取り組む男たちとそれを支える妻の話。宮崎あおいがヒロインを演じているというところで、気付くべきだった。最初は二宮和也主演の料理映画なんて、と気分はいささか敬遠気味だったのだが、これはそれだけの映画ではない。

 

映画は、西島秀俊演じる天才料理人による30年代の満州での冒険物語で、その謎を追う二宮という図式だ。西島は陸軍からの依頼で112品目から構成される伝説のフルコース「大日本帝国食菜全席」を考案する。しかし、今ではそのレシピが失われている。現在を舞台にした二宮による失われたレシピを探し出す旅と並行して、80年以上も前の昔々、西島がいかにして伝説の料理を作り出し、やがてそれが幻になるのか、その顛末が描かれていく。

 

だが、お話の中心はあくまでも西島と宮崎の夫婦の話なのである。ふたつの話がラストで重なるとき、なんだかスケールの小さな話へと萎んでしまうのだが、それこそが作り手の狙いで、これは壮大なスケールを装った、とある家族のお話だったのだと気付く。

 

二宮は祖父の人生をたどることで、自分のこれからの生き方を見つめることになる。それが周囲の人たちの善意に支えられ、と言う部分はちょっと嘘くさいのだけど、これはちょっとした壮大なホラ話だ、と思うと納得がいく。そうなのだ、これはティム・バートンの傑作『ビック・フィッシュ』のような映画なのだ。ただ、全体のルックスは必ずしもホラ話ではないし、一応シリアスなので、でも、そのわりにはお話全体も、そうだし映画全体がなんだかリアルじゃない、という感想をかなりの観客に抱かせる作りだ。でも、それは仕方がないことだ。突っ込みどころ満載だし、作り話でしかないし。


しかも、伝説のフルコースなんかより、みんなが喜ぶ料理を、なんていうありきたりな結論である。でもこの映画はそれで十分なのだ。壮大なロマンを描くお話は、小さな家族の絆へと収斂されていく。それでいい。

 

 

 


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