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映画・演劇のレビュー

『三島由紀夫vs東大全共闘  50年目の真実』

2021-06-05 16:44:13 | 映画

こんなにも強烈な映画だとは思いもしなかった。ドキュメンタリーなのだけれど、50年前の真実を伝える、ということより、この熱気にまず心打たれる。1000人の敵のただなかにたったひとりで戦いに挑む三島、という図式のバトル映画。タイトルだってまさにそんな感じだろ。東大駒場900番教室。1969年5月。日本で革命が起こせることを夢見た時代。右翼の権威三島に挑む東大全共闘の学生たち。

この映画は、政治的な問題を描くのではなく、あの時の熱気は何だったのかを感じさせる映画である。この討論会に参加した学生たち。彼らは三島を論破して叩きのめそうとしている。そこに単身で乗り込み、彼らを打ち倒すのではなく、三島は彼らを説得しようとしている。言葉によるバトルがこんなにもスリリングで、みんなが一言も聞き逃さないという意気込みでこの場に臨んでいる。その熱気がビシバシ伝わってくる。この臨場感たるや。

過去のことではなく、今現在、そこに自分もいるような気分にさせられる。三島と学生たちの言葉の合間に、当時の学生たちや識者による解説やコメントが挟まるのだけど、それが流れを壊すことはない。それどころか、今現在の視点が加わることで、この伝説のバトルはさらに立体的になる。時空を超えてそこに参加している気分にさせられる。ドキドキは止まらないし、さらに加速していく。

これは懐かしの映像なんかではなく、ビビットに言葉によるバトルを展開していく。ここに臨む彼らがどんなふうに生きてきたか、そんなことまで想像させる。三島だけでなく、そのことばのひとつひとつが、彼らひとりひとりがあの時代の中で全力で生きていたことを感じさせる。自分たちの力で時代を動かせる、この国を変えることができる、そう信じて闘う。自分の理想と思想を持ち生きた時間が背景にある。

そして、この翌年三島は割腹自殺を遂げ、学生運動は鎮火していく。この映画はそんな歴史を描くのではない。だけど僕たちはそのことを既に知っている。この後、日本はこの50年でどうなったのかも知っている。そこには彼らの夢見た未来はない。そんなことはこの時代を実際に生きた彼ら自身が身をもって知ったことだろう。もし三島が生きていたなら、70年以降の時間をどう過ごしただろうか。想像もつかない。


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