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映画・演劇のレビュー

『いのちの停車場』

2021-06-04 20:56:51 | 映画

映画の中でどんどん人が死んでいく。(出てきた人たちが病いと向き合う姿を描くにもかかわらず)看取りを描くのだけど、だから仕方ないことだろうけど、シビアだ。これは在宅医療看護の現場を描くヒューマン映画なのだけど、情け容赦ない。吉永小百合主演で描く心優しい医者と看護師たちによる心温まる映画を期待したなら少し驚くだろう。現実から目を背けない。甘い映画ではない。

ラストだって一度は父親の安楽死を受け入れる。結局は思い止まるけど、そこに前向きな答えがあるわけではない。父親は頼むから死なせてくれと訴える。生きていたらそれだけでいことがある、わけではない。つらいばかりなのだ。それでも生きよ、とはなかなか言えまい。

あわただしく駆け足でいくつものエピソードが描かれていくので、もの足りない印象を与えるかもしれない。ただ2時間の映画として作るためには仕方なかったかもしれない。成島出監督はほんとうはもっとキツイ映画を作りたかったのかもしれないけど、商業映画としてぎりぎりのバランスをとる。このくらいが限界だろう。だから映画としてはやはり少々物足りない。

ほっとさせられるようなエピソードを織り込むけど、そこがなんだかうそくさくて、とってつけたような印象を与える。それだけにラストの決断もいきなりに思える。彼女の中にあるはずの葛藤は見えてこない。西田敏行の院長もただの人のいいおっさんでしかない。在宅医療とどう向き合い、何を思うか、そこに対してもう少し言及してもよかったのではないか。やりたいことは十分理解できるのだが、いろんなところが中途半端なのだ。


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