今年もそろそろ梅雨時をむかえます。
長かった連戦も今日でひと区切りです。選手、スタッフはもとよりですけど、応援するぼくらもひと息いれたいですね。
そしてシーズン前半戦のデーゲームも今日で最後。前節は暑気に悩まされたけど、炎天下からは離れることができます。
連戦最後は、注目の大分。上位を伺う好成績のみならず、昇格チームでありながら特異なサッカーが気になり、今年の観戦の目玉のひとつです。You'll Never Walk Alone♪
噂通りの、好感がもてる良いチームでしたけど、横綱相撲でねじ伏せました。
東京はヒョンスが依然サスペンションです。シフトはダイヤモンドの4-4-2。GKは彰洋。CBはモリゲと剛。SBは成と諒也。CMは拳人と洋次郎。メイヤは右に建英左に慶悟。2トップはディエゴと謙佑です。
大分もほぼ前節と同じ布陣です。シフトは3-4-2-1。GKは高木。3CBは右から岩田、鈴木、庄司。WBは右に今日は星左に松本。CMは島川と長谷川。2シャドウは右に小塚左にオナイウ。1トップは藤本です。
監督と選手でしたら師弟対決なのでしょうけど、監督とコーチの場合はなんていうんでしょうね。年齢と業績からみて、やっぱり師弟対決でしょうか。
いまさら大分のリーグカップ優勝イヤーからの歴史を振り替える気はありませんけど、長く苦難の時間を過ごしてきました。J3まで経験したのが逆によかったのか、片野坂さんとの出会いからシンデレラストーリーをたどり、今年J1に復活しました。片野坂さんとの出会いは、単なるシンデレラストーリーではなく、一個の非常に個性的なサッカースタイルの確立を果たしました。監督とともに急浮上するチームは数多あれど、スタイルを確立しえた幸福なエンゲージは、おそらく片野坂大分だけだと思います。
地方クラブのJ1昇格は、それ自体が美化されてしまっていて、アプローチが問われることはほとんどありません。でも正直いって、J1クラスとエレベーターチームのサッカーの質のギャップが、ここ数年開いてきているのが気になります。昇格クラブにはそれぞれの有り様がありますからこのことを深ぼるつもりはないのですけど、少なくとも大分は、低予算でも地方でも、ハンデを越えて質のよいサッカーができることを証明してくれています。願わくば、大分発のムーブメントが全国に広がってくれるますように。
片野坂さんのメソッドを聞いてみたいほど興味がありますけど、ここはあくまでも素人の観戦記ですから、目撃の範囲で片野坂大分をみていきたいと思います。片野坂さんは現役時代も多くの監督を経験してますけど、やはりコーチとしての経験をみると、ミシャと健太さんがもっとも影響を受けたのだろうと思います。ミシャイズムはシフトに現れていますし、健太イズムも個の能力を重視していることで伺えます。でも監督としての片野坂さんは、そのどちらとも違う、独自の世界観を作りあげています。
近年は、攻撃にかける時間を短くする、ショートカウンターが主流です。そのためのアプローチとしてフォアチェックがトレンドになっていて、パワーとスピードが技術に優る傾向にあります。片野坂さんもセグメントするとカウンタースタイルですけど、アプローチは必ずしもフォアチェックに頼りません。むしろ、リトリートを前提とします。藤本をはじめとする華やかな攻撃力に着目されますけど、実は守備がとても堅調で、この試合の前の総失点は一桁台でした。それを実現しているのがリトリートスタイルです。あえてフォアチェックのリスクを回避することで、ゾーンに対するケアを充実させます。興味深いのは、3バックシステムに有りがちな守備時の5バック化はなく、守備陣形は3+6です。フォアチェックではないですけど、サイドの守備の仕掛けは積極的です。おそらく東京のロングフィードを警戒するとともに、SBの位置を下げる意図でしょう。
ゾーンがコンパクトですから、東京はなかなかペナルティエリアに入ることができません。さすがディエゴ、建英、慶悟のポスト力でバイタルエリアを使うところまでは行けるのですけど、その先はなかなか形を作れません。前半は、何度か謙佑がCBの間を取れていました。でもそれをチームとして活用するには至りませんでした。東京の積極的なシュートアテンプトはペナルティエリア外からのチャレンジのため、大分守備網に脅威を与えるに足るものではありません。3ゴール入りましたけど、すべてセットプレーがきっかけですので、大分を流れのなかでは結局崩せなかったといえます。
なお、セットプレーといえば、大分のフルゾーンディフェンスも特異ですね。たしか他には仙台でしたか。オンプレー、セットプレーともにフルゾーンなのは大分だけでしょう。メディアには、奇策の意図を聞いてみていただきたいです。
このように守備で、形はミシャスタイルを彷彿とさせつつもリトリートは健太スタイルと、ここでも両師匠のおもかげを残しつつ、独自進化させた個性を発揮しています。でもそれ以上に個性的なのは攻撃です。注目はやはり藤本。藤本は寿人とプレースタイルが似ているようですね。てっきり高アジリティ系のアタッカーだろうと思いこんでいたのですけど、実際は、ゴール前一撃必殺の純然たるストライカーなのだろうと思います。
大分は、藤本が最終局面で勝負するシーンから逆算して攻撃を組み立てます。このために藤本を消すのですけど、お膳立てに個性があります。いわば3シャドウ。ポステコグルーマリノスを彷彿とさせる、高く位置取る高木を加えたビルドアップのなか、オナイウと小塚に加えて、右WBの星も絞ってポジショニングします。ミシャスタイルのシャドウはポスト役でもリズム作りと、セカンドアタッカーの役割が特長でしたけど、片野坂スタイルでは、もっと個の能力を全面に出した、チャンスメーカーを担います。オナイウはスペースメイクとドリブル。小塚は広範囲なカバー力。星は右エリアのスペースメイクにたけていて、三人の動き出しのタイミングが後方からのフィードを引き出し、一気にアタッキングサードを目指すというのが、片野坂大分のカウンターアイデンティティです。
大分の躍進を引っ張っているのは、ここからだと思います。アタッキングサードに入る時点まではシャドウの仕事ですけど、オナイウ、小塚、星は、きっちりチャンスに繋げるクオリティを持っています。おそらく、迷わず大胆に仕掛けることを意識付けされているからだろうと思います。なかでももっとも可能性を感じるのはオナイウ。もっと線の細い選手だった記憶があるのですけど、大分でのオナイウは、ゴールに向かう貪欲な圧力を感じさせる好選手に進化しています。
ただ今日の大分は、仕掛けは見せ場を作るのですけど、最終局面の勝負にまで持ち込めません。結果的に藤本がほとんど目立たなかったのは大分自身の藤本を消す作戦に由来していることですけど、東京守備陣が、藤本が仕事をすべき場面で藤本を消えたままにしていたのもまた要因です。大分のアタッカーは静から動の変態を基軸とするようで、あまり運動量は高くはなく、藤本はとくに動きません。そのなかでも一瞬のスペースギャップを作る能力は、まだまだ藤本は寿人の領域にはいたってないようです。
ちょっと横路にそれますけど、おもしろい試合になる条件があると思っています。それは守備が上手いことと、プレーが過度に途切れないことです。もしかすると本質は同じことを意味しているのかもしれません。この二つは、観戦の安心感とリズムを生み出します。もとより東京はこの条件を満たしているのですけど、試合がおもしろくなるためには相手も同質でないと成立しない。上位との対戦が高クオリティになるのはこのためだと思っています。大分は、昇格チームながらこのカテゴリーに入るチームです。無駄なハードコンタクトがなく、かつインプレー時間が長いので、時間があっという間に感じます。
互いに見せ場を作りつつ、なかなか有効な攻撃ができないなと思っていたら、試合はセットプレーから動きます。
30分。大分陣深くの成のスローインから。成、ディエゴ、建英に対し、庄司、島川、松本の3on3がはじまります。仕掛けは建英でした。ボールをゴールライン際に運んでペナルティエリアを狙います。松本がマッチアップしますけど、チームルールで建英にはダブルチームをかけることになっていたのでしょう。島川がフォローにいきます。ディエゴがゴール前に入ったので庄司もラインに戻ります。これで成がフリーになっていました。大分のミスです。建英は成に渡します。この時ゴール前は、慶悟に鈴木、謙佑に岩田、ファアの諒也に星がついています。でも中央やや下がり気味にいた拳人がフリーでした。ルックアップした成はこれを確認して、拳人にクロス。小塚がニアでカットしようとしますけど時すでに遅し。成のクロスは安全圏を飛びます。拳人は少しファアに流れ、なんなく合わせました。東京1-0大分。
今日の東京のハイライトはここから。東京は、おそらく意図的に、フルコートでハイプレスを仕掛けます。通常先制するとリトリートするのですけど、今日はあえて、大分の逆襲機会を削ぐために、ハイプレスをかけたのだと思います。これが見事に奏功して、先制後もリズムを維持することに成功しました。そして、またまたセットプレーから追加点が生まれます。
39分。諒也の左CKから。星がクリアしたボールを建英が拾います。建英はまだカオス状態のゴール前にパス。これはオナイウにカットされます。オナイウは前方を右サイドに流れる岩田にパスしますけど、これを慶悟がカット。イーブンボールを建英が拾い、寄せてきた小塚を振り切ってドリブルスタート。一気にカウンターが発動します。建英はそのままペナルティエリアに入り、落ち着いてルックアップ。複数の選択肢のなか、選んだのはシュートでした。左足を振り抜きます。鈴木の股抜きを狙ったシュートは、鈴木の足に当たり、コースが変わります。高木のグラブの先をかすめて、ゴール左隅に突き刺さりました。ゴラッソ。東京2-0大分。
東京の好調は、もちろん技術やフィジカル、あるいは作戦の有効性によるものですけど、試合運びのメリハリも過去にはなかったことですから理由の一翼だろうと思います。この点では大分との違いは顕著です。大分はカウンターを狙ってアタッカー、とくに藤本とオナイウが守備に参加しないことも多いのに対し、東京のディシプリンは、もはやレゾンデートルになっている謙佑のみならず、ディエゴと建英にすら、行き届いています。これは今年に限ったことではありません。選手、スタッフのみならず、ぼくらサポにいたるまで、東京の絶対的な価値観です。前半はリードして終了。
後半の入りかたも今日は万全でした。よく言われる二点リードの怖さは単なる精神論なのですけど、サッカーが勢いに影響されるスポーツであることも事実。それゆえ今日は、慎重なまでに流れのコントロールにチーム全体で気を使ったのでしょう。その顕著が、先制直後と後半のスタートだったと思います。
東京のフォアチェックと、そこからのトランジションの好循環を止められなくなったため、片野坂さんが動きます。二枚同時代えです。星に代えて後藤を同じく右WBに投入します。
島川に代えてティティパンを同じくCMに投入します。とりあえず中盤のパワーを上げて、東京の好循環を止めること。さらには前線で基点になってボールを動かせる選手を増やす意図だと思います。
この作戦が奏功したわけではありませんけど、試合の流れが共鳴します。
59分。高木のパスを受けた鈴木のロングフィードをオナイウが落とします。これを小塚が受け、キープ。この時前線では、一度中央に寄ったオナイウが、拳人が小塚のチェックにいった後にスペースができたのを見て、入ります。小塚はオナイウにつけます。オナイウは右足でボールを置き、たぶんシュートと決めていたのでしょう。ターンしながら左足を振り抜きました。寄せていた剛はノーチャンスでした。ゴラッソ。東京2-1大分。
追い上げられたのですけど、オナイウのシュートが良すぎたので、あまり脅威には感じませんでした。直後に片野坂さんが動きます。シフトを4-2-3-1に変更します。松本が下がって左SBに入ります。トップ下は小塚。これが今日のターニングポイントになりました。直前の時間帯にオナイウにボールを集めることで攻撃のかたちができていました。その意味ではオナイウのゴールは必然で、順目を取るならもっとオナイウを活かしてもよかったと思います。ところがシフト変更によって、オナイウのポジションが下がるとともに、チームの勢いも止まります。結果論ですけど、以降、試合がすっかり落ち着いてしまったので、自滅といってもいいと思います。
健太さんは、流れが逆流しないことを確認して動きます。謙佑に代えてインスを同じくトップに投入します。今日はあくまでも、積極的に守備からイニシアチブを握る作戦で徹底します。インスの変わらない熱量がチームを引っ張ります。
それでも片野坂さんは作戦を戻しませんでした。岩田に代えて三竿を投入しますけど、シフトはそのまま。三竿は左SB、松本が右SBに回ります。本職のSBにチェンジしてサイドアタックの可能性を探る意図だと思います。
当時に健太さんが動きますけど、アクシデントからのコンディションの考慮です。足を痛めたディエゴに代えて輝一を同じくトップに投入します。
すぐ後に、またもやアクシデントです。同じく足を痛めた慶悟に代えてサンホを同じく左メイヤに投入します。連戦最終戦にきて、やっぱり疲労がたまっているのでしょう。二人とも大事がないことを願います。
勝敗は、大分が自ら落ち着いちゃった時点で決まった感がありましたけど、最後の最後におまけのような追加点が入ります。
後半アディショナルタイム+1分。後藤の右CKを東京がクリアした、小塚のスローインから。小塚はバックパスのイメージでティティパンに渡します。これに建英がチャレンジ。あわてたティティパンは高木にホスピタル。これを建英が拾います。建英は飛び出していた高木を振り切り、無人のゴールにコロコロコミック。東京3-1大分。
建英の代表初選出を祝う機会になりましたね。このまま試合終了。東京3-1大分。眠らない街♪
リトリートすることで東京のフォアチェックとカウンターを無力化し、クロスカウンターを狙う大分の作戦を正攻法でねじ伏せました。まさに横綱相撲。なによりも、初敗戦直後の試合だったにもかかわらずベストパフォーマンスを示せたことが良かったと思います。WE ARE TOKYO♪
それを裏付ける心身のリフレッシュが十分だったようですね。先週の大阪よりいくぶん過ごしよかったとはいえ、梅雨にかかりつつある湿気がありました。チームのリカバリー力の高さがうかがえます。拳人のシュワッチ。建英のシュワッチ。
今シーズンの鍵は6月だと思っています。例年、6月の中断期間を濃密に過ごしたチームが優勝に辿りつくことが多く、昨年の川崎が典型でしょう。後半延びてくるチームに対し、東京はまだ伸び代があるのか。もちろんアドバンテージがありますからまずは現状のチーム状態の維持が優先だと思いますけど、さらなるステップアップのため、チャレンジを続けてほしいと思います。