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映画 「イブラヒムおじさんとコーランの花たち」 Monsieur Ibrahim et les Fleurs du Coran を見る。
この原作は、先日取り上げたフランスの小説家エリック・エマニュエル・シュミット Éric‐Emmanuel Schmitt さんの同名の小説 (邦題は 「モモの物語」)。
まず配役を見て嬉しくなった。その昔、映画 「アラビアのロレンス Lawrence of Arabia」 が出た頃、学校の仲間からこの俳優に似ているといって冷やかされて以来、他人には思えなくなっているからだ。その俳優はオマー・シャリフ Omar Sharif。フランス語で語りかけてくれる。彼の役どころは、パリのユダヤ人街 Rue Bleue で雑貨屋を営むイスラム教徒の老人イブラヒム。
Arabe, ça veut dire "ouvert de huit heures du matin jusqu'à minuit et même le dimanche" dans l'épicerie.
「アラブというのは、朝の8時から真夜中まで仕事をして日曜も休まない雑貨屋のこと」
その街に住むユダヤ人のモイーズ (モモ) という大人になろうとしている少年の心の友になる。モイーズは母親が家を出て父親と二人で暮らしているが、やがてこの父も家を出て列車に飛び込み自殺する。一人なったこの少年と私の頭では想像もできないようなやり方で友になり、血のつながらない親子になる。
そしてパリからオープンカーでイブラヒムの故郷トルコの山あいにある家に向かう。途中、その場所が裕福なのか貧しいかはゴミ箱を見ればわかるというイブラヒムのこんな言葉がある。
「ゴミ箱はあるがゴミがなければ裕福、ゴミ箱の横にゴミがあれば裕福でも貧しくもない、それは観光地、もしゴミはあるがゴミ箱がなければ貧しいところ。」
-- Lorsque tu veux savoir si tu es dans un endroit riche ou pauvre, tu regardes les poubelles. Si tu vois des poubelles et pas d'ordures, c'est riche. Si tu vois des ordures à côté des poubelles, c'est ni riche ni pauvre : c'est touristique. Si tu vois les ordures sans les poubelles, c'est pauvre.
というわけで、 スイス Suisse - riche アルバニア Albanie - pauvre
それから何かが匂うだろうと言って車を止める。それが幸せの匂い漂うギリシャ。
"Ça sent le bonheur, c'est la Grèce."
廃墟となった神殿でイブラヒムが語る。
"La lenteur, c'est ça, le secret du bonheur"
「ゆっくり生きること。それが幸福の秘訣だ。」
そしてトルコに着く。ボスポラス海峡から眺めるイスタンブールの景色が素晴らしい。また旅心がくすぐられる。この町ではモモに目隠しをさせて、宗教を匂いで当てるというゲーム (?) をやらせる。
蝋燭・・・・カトリック
香・・・・・ギリシャ正教
足の匂い・・イスラム教 (本当に悪臭を発している・・・)
-- Ici ça sent le cierge, c'est catholique.
-- Là, ça sent l'encens, c'est orthodoxe.
-- Et là ça sent le pieds, c'est musulman. Non, vraiment là, ça pue trop fort...
イスタンブールを離れると、広がる視界に空と雲。こういうシーンに以前ならばもっと感動しただろうと考えていた。ここ1-2年で、このような美しさはいろいろなところで発見しているので、以前のような感動は訪れてくれない。途中の町で、自分の体を回転させて祈る宗派に出会う。外から見ていると何であんなことを、という踊りなのだが、回っているうちに自らの体から解放されて空に昇っていくような、自分が自分でなくなるような感じになるのかもしれない。
それから山道を登って彼の家に向かうが、途中でなぜかモモを車から降ろす。Je reviendrai très vite. と言い残して一人で去る。・・・
イブラヒムは彼の家で死の床についている。モモが家に着くと彼はこう言って自らの人生に別れを告げる。
"J'ai pas peur. Je sais ce qu'il y a dans mon Coran. ... Moi, j'ai bien vécu."
「死ぬのは怖くない。コーランに書いてあることを知っているから。・・・私はよく生きた」
そして画面がパリに戻ると、モモがイブラヒムの後を継いで雑貨屋を。そこでは人こそ違え、以前と同じ時間が流れている。
映画の中に流れる60年代の音楽がよい。45回転のドーナツ盤も久しぶりに見ることができた。原作者が愛しているモーツアルト (バイオリン・コンチェルト第一番) も流れていた。少しだけ齧ったことのある懐かしいトルコ語の音も聞けた。
この映画には、異教間の融和を願っているような、親子・家族のつながりを見直そうとしているような、この世界に生きていることや人の一生の意味をどんなところに見つけるのかを静かに語っているような、そんな思いがあるような気がしていた。一見の価値がある映画、一読の価値があるお話。
いい映画でしたね。デビッド・リーンの映画は大好きです。
人間の弱さ、優しさがでていて素晴らしい。
「イブラヒムおじさんとコーランの花たち」もなぜか見てしまいました。何か共感するものはありましたが、デビッドリーンの映画ほど感動的ではありませんでした。そのあたりがフランスらしい所かもしれませんが。
あまりコメントを書いたりしませんが、時々ブログを読ませていただき、いつも共感を覚えて驚いています。楽しみにしております。
s'en remettreがつかわれているのでしょうか?
意味が少しかわつてきますので、お教えいただきたいとおもいます。宗教的にもとれますし、運を天に、ともとれますので、どちらかしら?と文章よみながらおもいました。
Je m'en suis « remis à Dieu », comme disait monsieur Ibrahim lorsqu'il parlait des clochards : j'ai mendié et j'ai couché dehors et ça aussi c'était un beau cadeau.
私の印象では宗教的意味合いが強いように感じました。この小説全体の底には宗教の問題が流れているようですし、、。
でその色合いがつたわつてきました。ありがとぷございました。