「誇」-URAWA REDS-
共に…
 



朝一ののぞみ1号には、一見して「その筋」と判る人たちが大勢乗車していた。
“みんな凄いよね”
ゴクゴク稀に、洗濯落ちした青を纏った人もちらほら。
“ねぇ、あの人たち何処行くの?”
“ウチらと同じ所だと思うけど?”
対戦相手も知らずに遠征に向かう相方…。

満席の特急しおかぜ号が瀬戸大橋を渡る。
車内で購入する切符はみな「丸亀行き」の様相。
けれど僕らは宇多津駅で途中下車。

フリー切符と毎度のコンビニ詣でを済ませると、
反対側ホームにはアンパンマン列車が入線。
揚げぴっぴっておいしいよね”
早くも開封。
いつものつまみ食いの旅が始まる。
“このエビせん、生臭くない??”
リアルな味がおいしいけど、口臭が気になるお味、、、。

次の快速電車は子供たちや家族連れで大賑わい。
“なんだなんだ??”
みんな丸亀で降りていく。
“天皇杯、のお客さんだよ…”
“名前だけの好カードに騙されてない!?”
ここも下車せず多度津駅へ。

“ほら、遠くに塔が見えるでしょ。あれが総本山だよ”
何を隠そう、相方は少林寺拳法有段者。
“ヘンな宗教みたいだよね”
“違います、財団法人です”
とあっさり否定。

“多度津って、少林寺で潤ってる町なんだよ”
“そ、そうなの!?”

確かに、自動販売機にまで少林寺のイラストが描かれてたよ。

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“丸亀は大変なことになってるみたいですよ”
“朝から無線で丸亀に回れって言われちゃってね”
と、多度津から乗車したタクシーの運ちゃん。
“前からこんな立派な競技場でしたっけ?”
“改装なんてしてないから、昔からこうだよ”

10年前、清水に負けて以来のスタジアム。
ホーム側チケットは売り切れ。
地元の人が為す列に「赤」が混じる。
狭い入場ゲートを潜る。
芝生のスタンドが広がる。
“やっぱり変わってないね”
“そうそう、この辺りに陣取ったんだっけ”
“遠いところで負けたよね、あの頃は”

GK山岸
DF平川・坪井・堀之内・相馬
MF啓太・暢久・ポンテ
FWセルヒオ・エジミウソン・永井
リザーブ加藤・近藤・内舘・梅崎・西澤・岡野・高原
代表4人と細貝を欠き、堤も戦線離脱。
“ベストメンバー問題には抵触しないの!?”
「誰が出ても遜色ない戦いが出来る」のは既に過去の幻。
熟成されない戦術の中で、勝ち上がることが出来るのか?
西国の日射しが眩しい昼間の試合。
“散漫にならないように気を付けなきゃ”

“噛み合ってないか…”
“ギクシャクした感じかするよ”
パスは回る、後ろの方で。
決して悪いとは言い切れない、決していいとは言えない。
“左がバランス悪いよね”
永井の位置取りが分からない。
5分、その左サイドを抉られる。
0-1、横浜先制。
“どうして同じやられ方ばっかり…”
僕らの戦意を削ぐような失点。
静まるゴール裏。
“あ、止めちゃうんだ…”

選手の声が響く。
立て直せない浦和。
自由にボールを展開する横浜。
ハユマを誰も止められない。
特定の選手を揶揄したり、指示する声が散発する。
“黙ると雰囲気悪くなるんだよな…”
かといって自発的には何も出来ない。
僕自身も目の前に繰り広げられる惨状に、声を失っていた。

20分、左からハユマ。
0-2、横浜追加点。
“何でだ…、どうして何だよ…”
焦る気持ち、消沈するココロ。
新潟・駒場・札幌と少しずつ紡いだ糸が、切れていく。
孤軍奮闘する坪井。
再三のピンチを救う山岸。
“しっかり、堪えてくれ”
FKからネットを揺らすが得点は認められず。
“揺さ振れば崩れるのに”
“横浜だってそんなに強くないのに…”
どちらも強くない、ウチの方が弱い。
そんな試合展開。

43分、ゴール前中央ポストに当たったボールにセルが反応。
1-2、追撃。
“これで変わってくれればいいな…”
突っ立っていただけの前半が終わる。

後半開始直後。
目の前のネットが揺れる。
“エジ?ホリ?”
46分、2-2。
“これで振り出しだ、さあ、ここからだ”
活気付くゴール裏。
「いつもの」ゴール裏が帰って来る。
跳ねる、声を張り上げる。
“絶対負けない、負けたくない”
“勝って、次に繋げるんだ”
“勝たせてやりたい、奴等と戦い続けたい”
少ない人数だからこそ、
来れなかった人たちの分もヤらなければ。
「浦和」が帰って来る。

セルのシュートをGKが弾く。
詰めていたエジが撃つ。
“決まらないのか…”
“ツキがないのか、エジには…”
求めるものが大きいほど、失望も大きくなる。
81分、エジミウソンout高原in。
“タカ、頼んだぞ!”
“延長は嫌だ、決めてくれよ”
強いシュートを放つもゴールマウスを破れない。
89分、暢久out西澤in。
“ヨシヤなんだ、ここで”
そのままボランチに入る与志也。
“時間が無い、決めてくれ!”

90分終了、2-2。

延長前半。
足が止まる両チーム。
縦へのロングボールが増える横浜。
ヨシヤのミドル、中盤までボールを受けに戻る高原。
決定機を作れない。
“あと15分、頑張れ、頑張るんだ”
延長後半。
永井が倒れる。
“足攣ったんだ…”
セルもピッチに蹲る。
ロビーが駆け寄る。
“え、×なのか…”
109分、セルヒオout梅崎in。
“ウメ!!頼むぞ”
総力戦。
勝ちたい。
勝ちたい。
勝ちたい。
ピッチとゴール裏がひとつになる。
“勝たせてやるからな、お前ら”

主審の手が挙がる。
2-2。
勝負はPK戦に突入。
ロビー、永井が決める。
横浜も譲らない。
ヒラ、ウメも決める。
ギシくんの読みが、微妙にずれ始める。
5人目、先行の横浜が決め5-4に。
“ヨシヤが5人目だよ…”
“ヨシヤ、落ち着けよ”
ゴール真上に決める。
“思い切りがいいねぇ、いい選手に成長したんだね”
6-5。
ここまで失敗者はゼロ。
“啓太だ、啓太か…”
“大丈夫か、大丈夫だよな…”

項垂れる啓太。
“啓太のせいじゃないよ、お前だけが悪いんじゃない”
戦う気持ちを思い出させてくれた。
誰かを責めるなんて、出来なかった。

あと3つ。
もう、やるしかないんだ。



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