おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「謎解きはディナーのあとで」 東川篤哉

2011年06月14日 | は行の作家

「謎解きはディナーのあとで」 東川篤哉著 小学館 2011/06/13読了  

 

 何年か前に深田恭子主演で「富豪刑事」といとうテレビドラマがあった。本編を見たわけではないけれど、予告編で深キョンが「たった○○億円のために殺人事件を起こすなんて信じられな~い」という、すっとぼけたセリフを甘ったるい声で言っているのを聞いて、「深田恭子による、深田恭子のためのドラマなんだろうなぁ」と思いました。トリックの緻密さとか、リアリティなんかは二の次で、深キョンが深キョン的に可愛ければそれでよしってことだったんじゃないかと…。

 

(と、ここまで書いたところで、友人から「富豪刑事」の原作は筒井康隆の小説で、そちらはめちゃめちゃ面白い作品であったとの情報がもたらされる。)

 

 で、その「富豪刑事」にインスパイアされた作品なのかどうかはしりませんが、「謎解きはディナーのあとで」も、警視庁国立署の超セレブなお坊ちゃま刑事とお嬢様刑事のコンビが難事件に挑む。でも刑事としての2人の能力はほどほどな感じで、難事件を見事に解き明かすのは、お嬢様に仕える執事でした―という設定。しかも、この執事は現場も見ずに、お嬢様に事件の概要を聞いただけで、犯人やその手口を推理してしまう。その上、「お嬢様の目は節穴でございますか」などと辛辣な言葉をまき散らす毒舌家。

 

 個人的には、まったく好みではないけれど、百歩譲って「キャラもの」というジャンルならば「あり」かもしれないな―と思わないでもない。GACKTとか、いかにもナルシストな雰囲気の俳優さんで深夜枠のドラマにしたら、まぁ、それなりにウケるかも。

 

 けれど、これが2011年の「本屋大賞」というのが、どうも、いまいち、腑に落ちない。メインキャラのお嬢様刑事と執事はコメディエンヌ、コメディアンとして、ある程度、できあがってはいるものの、漫画チックに面白いだけ。その背景に、今の時代を映す何か、人間が背負う業とか、悲しみとかがあるわけでもない。その場限りは大笑いして、後で、ちょっと虚しくなる、安っぽいお笑い番組のような…。

 

 その上で、細部があまりにもテキトーすぎるのです。ちょっとしたミステリーファンや、刑事ドラマ好きであれば「ありえな~い」と叫びたくなるような設定が2ページに1回ぐらいの頻度で出てくる。まあ、それも、「コメディなんだからいちいち目くじらを立てずに読めばいいのか」と割り切れば済むことかもしれない。

 

 が、本の帯を見ると「令嬢刑事と毒舌執事が事件を解決。ユーモアいっぱいの本格ミステリ!」と書いてある。こんなテキトーな設定で、「本格」を名乗る気? 本屋大賞に寄せられた書店員のコメントも「ミステリとしても満足のいく出来」「ミステリとしてもきちんと仕上がっている」「上質のミステリ」と絶賛モード。

 

一言、言わせて頂きたい。「書店員さんの目は節穴でございますか?」。

 

 ちなみに、本屋大賞の10作品の中で私の既読は、2位の「ふがいない僕は空を見た」窪美澄著・新潮社、9位「キケン」有川浩著・新潮社、10位「ストーリー・セラー」有川浩著・新潮社の3冊。「キケン」「ストーリー・セラー」は有川浩の代表作にはならない程度の作品なので、まあ、大賞受賞しなくとも納得。「ふがいない僕は空を見た」は、圧倒的によかった。キワモノ的なプロローグとは裏腹に、生きるとは何かを問う作品だ。人間の弱さ、愚かしさを淡々と描きつつ、最後に心に残るのは人間の生への渇望であり、たくましさ、強さ。こういう作品こそ、本屋大賞を受賞してほしいなぁ。ま、毎年、本屋大賞とは意見が合わない私です。

 

 



2 コメント

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コンバンワ (Medeski)
2011-06-19 18:30:03
私も表紙が違ってたら、どういう評判になっていたか気になる作品です。本屋大賞はさすがに自浄作用が働いて、伊坂幸太郎など常連の作家は殿堂入りさせて、ランクイン出来ないようにして欲しいですね。ファン投票のようになっている気がします。直木賞が中堅作家をBIGネームにさせる賞となっているので、本屋大賞には知名度が無いベテラン、新人に光を当てる賞として機能して欲しいです。
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人気投票にしても…。 (おりおん。)
2011-06-21 06:24:00
Medeskiさん、コメントありがとうございました。昨日も、ちょこっと某・大手書店をのぞいたら、相変わらず「謎解きはディナーのあとで」がフィーチャーされていました。 ま、本屋大賞の本質は人気投票かなぁと思うのですが、それにしても、書店員さんがこんな薄っぺらなミステリーを推すって、ちょっと心配になります。
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