おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「誰にも書ける一冊の本」 萩原浩著 

2012年01月28日 | は行の作家

「誰にも書ける一冊の本」 萩原浩著 光文社 12/01/24読了

 

 6人の作家が「死に様」をテーマに競作した光文社のシリーズ本のうちの一冊。

 

 もともとは光文社の小説誌「宝石」の企画であり、中編という長さ制限があったものと思われますが…。にしても、なんか、あまりにもオーソドックスというか、ストレートど真ん中な感じの作品でした。

 

 東京で小さな広告会社を経営する「私」は、父の危篤で故郷の函館に急遽、呼び戻される。父親は80歳を過ぎ、大往生といっていい年齢だが、いざ、今際のきわとなればおろおろとうろたえる家族たち。

 

 そんな中で、母親から、父が密かに書きためていたという「自伝的小説」を手渡される。意識が戻る見込みすらない父が眠るベッドの脇で「私」はその小説を読み始める。函館がイヤで大学進学と同時に上京し、その後、年に数度、帰京するだけ。大人になってから、父親とじっくりと話をしたこともない「私」は、父が書いた小説を通じて初めて父の人生に触れる。当たり前なんだけど、そのストーリーの中では、凡庸な人にしか見えなかった父が、主役を張っているのだ。その人の人生の中では、その人が主人公である、そんな当たり前のことに気付かされる「私」。

 

 親と真正面から向き合わなかった ― というのは、誰でも身に覚えのあること。そして、年老いていく親の姿を目の当たりにして、「もうちょっと親の話を聞いておいてあげればよかったかなぁ」と思いつつも、いまさら気恥ずかしくて実行できずにいる人も少なからずいる。そういう読者の痛いところを突いてくる王道の作品なんだけど、萩原浩だったら、もうひとひねりを効かせてもいいんじゃないかなと思いたくなってしまいます。

 

 ところで、この本を一冊1200円で売るって、なかなか、勇気ある値付け。6作品とも、既に、小説「宝石」で発表済み。小説「宝石」は税込み780円で、何十もの連載小説・エッセイによって構成されている。そこから、一作品を切り分けて1200円というのは、消費者の感覚としては高すぎっ!もちろん、文芸誌から単行本化は珍しいことではないけれど、この本は、とっても大きな活字で、しかも、薄い。あきらかに、一作品で一冊の単行本にするのが無理無理なのです。 幕の内弁当780円で、そこにちょこっと入っている煮物だけを別の容器に入れてバラ売りしてもらったら1200円したのと同じことですよね。6作品シリーズで揃えたら7200円なんて…。

 

 とってもステキな装幀だし、流通コストがかかることも理解できるけれど…高速通信が普及して大容量のコンテンツも簡単にネットでやりとできる時代に、紙の書籍が、読者を甘くみたような値付けしていて大丈夫なんでしょうか? 

 

 と、偉そうに書きましたが、スミマセン、知人に借りて読んだので1200円払ったわけではありません。でも、これに1200円、やっぱり、払いたくないなぁ。 

 

 



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