おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「船に乗れ!」ⅠⅡⅢ   藤谷治 

2010年09月18日 | は行の作家
「船に乗れ!」ⅠⅡⅢ  藤谷治著 ジャイブ 2010/09/18読了  

 芸大付属高校に落ち、小さな挫折を味わった三流音楽高校の生徒である「僕」がいかに大人になっていたか-の成長物語。

一人一人にとって、自分の人生はとてつもなくドラマチック。それは、他人にとって取るに足らないような出来事であっても、その出来事に向き合う本人にとっては、頂上が見えないほどに高く、険しい絶壁のように立ちはだかる。そして、時には、それを乗り越えられずに逃げ出してしまうのもまた人生。それでも、人は大人になり、ドラマチックではないけれど、人生はずっと続く-そんな物語でした。

 正直なところ、第2巻で「僕」の純愛の相手である南枝里子が、「僕」が数週間の短期留学をしている間に、好きでもない男と寝て、妊娠して、学校を辞めてしまう-というあまりに安っぽい学園ドラマ風事件に、かなり、ゲンナリしました。が、まあ、でも、3巻全体を通してみると、不格好だったけれど、私なりに精いっぱいだった中学・高校時代が懐かしく、愛おしく思えるような、そんなストーリーでした。

 そして「船に乗れ!」というメッセージがいい。「僕」が、壁を超えられずに自暴自棄になった時に、生贄として傷付けてしまった相手から送られたニーチェの言葉。恐らく、「僕」は自分の犯した罪の代償として、一生、負っていかなければいけない言葉。それは「生きろ」「もがきながらでも生きろ」というメッセージであり、命じられるまでもなく「それでも、人は生きていく」という現実を伝えているようでもある言葉だった。

 個人的には、本牧や紅葉坂の県立音楽堂、県民ホール-私の高校生活にとっても馴染み深い地名がたくさん出てきたことが、ちょっと嬉しかった。そして、やっぱり、2巻の冒頭の方で、純愛の2人が初めて手をつなぐ場面はキュンとしました。

 出版社の「ジャイブ」って気になるなぁとずっと思っていたのですが、「雨にも負けず粗茶一服(松村栄子著 2008/09/07読了)」の文庫版を出していた会社でした(私は文庫を待ち切れずにマガジンハウス版のちょっと高いのを買いましたが…)。青春モノを得意とする本屋なのだろうか? 疲れたおばちゃんも、たまに、こういうビタミン剤をもらうと元気になれます! 



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