おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「純平、考え直せ」 奥田英朗

2011年01月23日 | あ行の作家
「純平、考え直せ」 奥田英朗 光文社 11/01/23読了 

 さすが、奥田英朗だけあって、もちろん、十分に面白いのですが…なんか、読後感がスッキリしませんでした。

 純平くん21歳。歌舞伎町にシマを持つヤクザ・早田組の下っ端。不幸な家庭に生まれ育ち、不良→暴走族→少年院とチンピラのエリートコースを歩む。子どもの頃から本当の居場所が見つけられずにいた純平くんにとって、歌舞伎町は自分を受け入れてくれる落ち着ける場所。ベビーフェイスで、ちょっと昔気質の仁義に篤い性格とあって、町ではクラブのお姉さんから、おかまちゃんにまで可愛がられる人気者。

 でも、純平くんは、可愛がられたいんじゃない。心酔する兄貴分みたいな、カッコイイ大人の男になりたいのだ。少年院ぐらいでは箔がつかない。本当の刑務所送りになって、ヤクザとして名前を上げたい―そんな風に考えていた矢先、組長から「鉄砲玉になってくれ」と指名される。そして、最後に娑婆の空気を満喫するため、「実行」の日まで、純平くんに与えられた休暇は3日。

 暴力団組員といっても、下っ端の仕事は電話版やカバン持ちがいいところ。自由な時間も、遊ぶカネもなく、窮屈な暮らしを強いられてきた。だから、その3日間こそが、純平にとっての初めての「青春」らしい日々。

 人が頼ってくれることの喜び、損得抜きで気遣ってくれる友だちのありがたみ、夢に向かって真剣に取り組む人の美しさ、年老いてなお青春を謳歌する老人の自由さ―純平くんは3日間に凝縮された青春の日々に、これまでにない様々な出会いをし、これまで感じたことのない感情を抱く。

 逆ナンして一夜を共にした女の子が、ネットの掲示板に「今、ラブホで一緒にいる男の子が来週、敵対する組の幹部を殺すと言っています。止める方法を教えて」と書き込んだことがきっかけで、純平君スレッドができてしまい、みんなが勝手な意見を言い合うという、いかにも、今ドキっぽいエピソードも盛り込まれているのだが、結果的には、このサイトは純平くんには、何の影響も与えなかったということなんだろうなぁ…

 歌舞伎町のヤクザという、ちょっと特殊な世界を描きながら、現代人の誰もが抱える孤独と、ほんのちょっと今までの世界から外に足を踏み出してみれば、孤独から抜け出す方法はあるという普遍的なテーマなような気もします。

 でもなぁ。なんか結末が腑に落ちないのです。いや、まあ、ある意味リアルな結末なのかもしれません。でも「えっ~。で、その後、どうなるの???」という疑問は残る。疑問は、読者の妄想で勝手に埋めればいいのかもしれないけれど…ううううう、やっぱり、もうちょっと、希望の光が見えるようであってほしかったなぁ。


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