おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「東洲しゃらくさし」 松井今朝子

2008年05月01日 | ま行の作家
「東洲しゃらくさし」 松井今朝子著 PHP文庫 (08/05/01読了)

 しみじみと、しみじみと面白い。値段にケチをつけるわけではありませんが、こんな凄い小説が648円なんて、安すぎます! そうと知って読んだわけではないのですが…最新刊の「そろそろ旅に」(講談社刊)と、11年前のデビュー作「東洲しゃらくさし」がリンクしていたのです。もちろん単発でも十分に素晴らしい作品なのですが、たまたま、立て続けに読んだ私は、10倍楽しめた気分です。

 「東洲しゃらくさし」の語呂からなんとなく想像がつきますが、浮世絵師・東洲斎写楽の物語。ネットでちょこっと調べてみると、写楽というのは、忽然と現われて、短い期間に多作し、忽然と消えてしまった謎の絵師らしく、それゆえに、「写楽とはどこの誰ぞや」「写楽とは○○と同一人物なのである」的な謎解き本がこれまでに数多く出版されているそうです。「東洲しゃらくさし」は、その手の謎解きとは一線を画しています。時にはその人物の欠点を強調したようにすら見える写楽の画風がなぜ生まれたのか、そして、なぜ、写楽は江戸にやってきたのか、なぜ、忽然と消えたのか、その胸のうちにあった思いは何なのか-写楽の内面に光を当てています。超有名絵師にして、決して、カリスマなどではなく、弱く、自分に自信がなく、不安で、流されやすい若者。それでも、写楽がなぜ、人々の心を惹きつけてやまない絵を描けたのかを謎解いているのです。もちろん、小難しい論文などではなく、謎解きだけが面白いわけではありません。小説として超一級です。

 そして10倍楽しめたと思うのは- 「そろそろ旅に」の主人公初めとする重要登場人物が、そこそこ重要な脇役として多数出演。ついでに言ってしまうと、「並木拍子郎種取帖シリーズ」も合わせて読むこともおススメします。拍子郎シリーズは、「東洲…」や「そろそろ…」とは全く作風を異にして、ホンワリ癒し系のお江戸事件モノなのですが、ここにも「五瓶センセ、こんなところにも出演していらしたんですね!」と言いたくなるような、共通の登場人物がいるのです。こうして、私は、どんどん、松井今朝子地獄にハマっていっています。松井さんのすごいところは、ダブッた登場人物がいても、決して「あ、また、こいつか」なんていう気持ちにはならず、むしろ、「また、会えて嬉しい~!」と思えるのです。というのも、登場人物がダブっても、ストーリーは全くダブっておらず、この前主役を張っていた役者がちょい役で友情出演して話を盛り上げて、面白さを増幅させているのです。

 ああ、読書の幸せってこういうこところにあるのです。幸せな一日を終えられた今日に感謝!


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